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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第2章 6-3 レラ

 スティッキィが不審げにウォラを見つめる。もう、ウォラも信用できない。いや、スティッキィはウガマール全てが信用できなくっていた。カンナのためにならないのであれば、カンナを連れて逃げ、ウガマールとも戦う覚悟がいる。そう思った。


 その思いを見透かすように、ウォラが冷たい眼をスティッキィへ向ける。


 「それはない。あの封神石(ほうじんせき)の操作方法は、もうよくわからないのだ……少なくとも私には。マイカ自らの意志で動くとも云われている……。いずれ必要が生ずれば、マイカは目覚めるのだろう」


 「じゃあ……相手は何なのよお」

 「カンナの妹だ」

 「いもおとお!?」

 スティッキィの声が、しゃっくりめいてひっくり返った。


 「カンナちゃんに妹がいたのお!? それも……おんなじくらい強いい!?」

 「まさか!」

 ライバが息をのむ。

 「まさか……二人目の……?」

 「察しがいいな、ライバ」

 ウォラがにやりと笑う。


 「八十八人目だ。カンナの後、その成功例の再現と製法の確立をねらい十一人を一気に試し、十人が早々に死んだ。が、一人残った。奇跡だよ。この短期間で二人目などと。まったくの奇跡だ。カンナ以上の」


 「二人目……」

 スティッキィも目をむく。あんな、カンナと同じほどのガリア遣いが、もう一人いるというのか。


 「だがな、問題はそこではないのだ……。我々にとっては単なる予備の急造品だが、それを担ぎ上げる者たちがいる。性能はカンナと大差ない。いや、凌ぐ部分もあるだろう。だがカンナに一日の長があると我々は観ている。むこうはどう考えても調整不足に経験不足だ。つい、二か月前に覚醒したばかりだからな……。いま、突貫で調整しているだろうが……どこまで通じるものか。だいぶん、精神的に不安定と聞いている」


 「そ、それって……ウォラさん……まさか……あの……」

 「そうだ」

 ウォラが二人の前に、右拳をつきだした。

 「ンゴボ川で見ただろう。カンナと戦った、あの暴風の化身を!」

 「げえ……」


 神々の戦いのように感じた、あの夜の戦い。あのような戦いが、この世にあり得るのだろうかと思ったが、夢ではなかった。あの青白く光り、高速で宙を舞う稲妻の塊が、カンナの妹……?


 「で、でも、あの時は、カンナちゃんが勝ったわあ!」


 「たまたまだ。カンナの意識がなかった。無意識ではカンナは強い。しかし、あの子は優しい……自らと同じ運命の相手へ同情するだろう。だが相手は憎しみしかないぞ。カンナに対する。そういう調整を受けているからな。まして、いちど負けている。その屈辱を雪ぐため、牙を研いでいるだろう」


 二人は深呼吸めいて大きく息を吸った。精神が混乱する。

 「……なんていう名前なんです? その、二人目の……」


 二人目の、なんなのだろう。カンナは、何と呼べばよい存在なのだろう。ライバは、その問いを認識して途方に暮れた。


 「レラ。レランカームィだ」

 ウォラは顔を歪め、そのゆがめた表情を見られまいと、窓の外を向いた。

 松明が、まだ蠢いている。

 


 7

 

 時系列は少々、さかのぼる。

 ンゴボ川でカンナたちと戦い、思わぬ強さにひるみ、叩きのめされた相手……。

 その夜、そのままウガマールまで一直線に逃げ帰った。

 まるで流星めいて、その青白い軌跡は奥院宮(おくいんのみや)へ突き刺さった。

 「ハア……ハア……」

 全身から白い煙を発し、建物の屋上へ下りたレラは、荒い息を吐いてうずくまっていた。


 ここは、奥院宮の神殿の一つだ。ほぼ左右対称に作られた奥院宮の神殿群のうち、奥へ向かって右側が神官長が日々の執務や祭祀を執り行い、左側が大密神官たちが執務や祭祀を行う場となっている。大密神官は現在七人おり、筆頭がムルンベ大密神官。そして全員が反神官長派だ。


 「どうした、レラ!」

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