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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第2章 6-1 竜真人

 「権力闘争……と、いえばきこえはよいがな。事は、そう生半可な規模ではない」

 窓の外では、まだ兵士たちが松明を片手にざわついて行き来している。


 「入域の許可は、今は難しい。とすれば、既に許可を得ていることにすればいい。日付を遡ってな。その程度なら、こちらでもなんとかなる」


 ウォラが二人へ、木の板を加工した札を渡した。名前と日付と、奥院宮(おくいんのみや)における身分保証の内容がウガマール語で書かれている。


 「つまり、あたしたちは別行動でとっくにウガマールに着いていて、誰だかわからないけど誰かから保証されて、許可をもらってたってことお?」


 「そういうことだ」

 「そんなんでいいわけえ?」

 「役所とはそういうものだ。真実より、法との整合性を問われる」

 「そんなことより、ウォラさん」


 ライバが、木札を両手で握りしめたまま、顔を上げる。しかし、二の句が継げぬ。恐ろしい。真実を知るのが。あうあうと、唇を動かすだけだ。


 ウォラは窓際へ座り、ひじ掛けへ肘をおき頬杖をしながら、窓の外を見た。

 「私は事実を話すだけだ。あとは、お前たちがそれを受け入れられるかどうかだ」

 ライバの奥歯が小刻みに鳴りだした。両手も合わせて震える。


 そんなライバの背中を、スティッキィがばっしと叩いた。そのまま椅子より立ち上がり、涙目をぬぐいもせず、スティッキィは啖呵を切った。


 「話してもらおうじゃないのよお!! こちとら、カンナちゃんの正体が何だろうと、どこまでも着いてくって決めてんのよお!! それがたとえ、あの世だろうとね!!」


 「よく云った!」

 ウォラが立ち上がり、笑顔でパンと手を叩いた。


 「その言葉を待っていた。私では限界がある……私は、あくまでウガマールの神へ仕える身だからな。カンナへどこまでも着いて行くわけにはゆかない……誰かが、誰かがカンナを支えなくてはならないのだ。お前たち、やってくれるのだな!」


 「まっかせなさいってんのよお!!」


 ヤケ気味に、スティッキィが豊満な胸を張る。ライバがまだブルブル震えていたので、スティッキィは再度、ライバの肩を叩いた。そのまま、何度も叩く。


 やっとライバがその手を払い、こちらも涙目で、

 「いったいなあ! 私だってわかってるよ! 頭でわかってても、こ、心が……」

 そこで深呼吸。

 「ウォラさん。……説明……説明をお願いします」

 顔を上げ、しっかりとウォラを見据え、ライバは断言した。

 「では話そう」


 ウォラが二人へ向き直る。いつもの堂々とした態度と朗々とした声が、いまはむしろ妙に他人ごとに感じられ、二人は顔を微かにゆがめた。


 「どこまで見たか知らないが……おそらく、地下の封印室で封じられた人物を見ただろう。私も聞くだけだが……あれがウガマールにいた碧竜のダール、マイカだ。もう、百二十年ものあいだ、あの封神石に閉じこめられている。どうやって捕らえたのか、それとも自ら入ったのか、伝わっていない。秘匿されている。そして、カンナはウガマールが長年研究してきた最初の成果だ。すなわち……」


 ウォラが、唾をのむ。少し、言葉を躊躇しているように。


 「人間とバグルスを融合させた肉体に……そのガリアごとダール・マイカの魂の一部を写して移植し……我ら教導騎士が育て上げた究極のガリア遣いにして、神代と現世、常世と此世の蓋を自在に開閉し、通行する力と権限を与えられた、竜真人(りゅうのまひと)だ」


 「?」


 二人がさらに眉をひそめ、顔をゆがめた。無理もない。

 なんだって?

 声には出さずとも、顔に書いてある。

 ウォラはその顔を見て、無理もないが、そもそもより説明をする必要を感じた。


 「この世に七人いるダールというものは……いつの時代からいるのかはっきりしていない。少なくとも古代帝国以前よりいた。古代帝国以前は、いったいどのような世界だったのか、神話でしか語られていないので分からない。記憶と記録は、失われている。それはディスケル=スタルでも同じと聴くが、聖地ピ=パにおいてはその限りではないらしい。さて……七人のダールは、それぞれ力と役が定まっている。七柱の竜神の血肉と魂魄が発現するからな。それが赤竜のダール、炎熱の先陣。黒竜のダール、黒衣の参謀。紫竜のダール、死の再生。白竜のダール、氷結の裁定。青竜のダール、深き先導。そして……碧竜のダール、神鍵(しんけん)の守護と、黄竜のダール、神代の代理だ。結論から云うと、本来は碧竜のダールは聖地ウガマールに、黄竜のダールは聖地ピ=パにいる。もっとも、黄竜は聖地出身のディスケル皇帝家にくっついて、ここ数百年は帝都ヅェイリンにいたようだが、この二百五十年ほど姿を消している。それはなぜか……」

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