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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第2章 2-3 新しい神の名

 ウォラが忌々し気に、そんなわけはないだろう、という感じで云う。あっ、という顔つきとなり、すぐにウガマール語でまくしたてた。ここいらはウガマール領内であり、みな、共通語でウガマール語を話す。


 「お前様は、昨夜の戦いをご覧になりましたか!?」

 「悪い神を善い神が追い返してくださいました!」

 「さいきん、ここいらを悪い神が荒らして回っておりました!」

 「あの善い神は、ウガマールの神でしょうか?」


 およそ、こんな内容である。カンナが引きつったような顔となり、ウォラがたまらず笑みを漏らした。


 「そうだ、あれこそウガマールの新しき善い神だ!」

 そう云い放ち、村人が感嘆の声をあげたので、カンナは驚愕した。

 「ちょ、ちょっと、ウォラ……!!」

 「いいから、まかせておけ」

 小声で云うと、村人らへ振り返り、奥院宮密神官(おくいんのみやみつしんかん)の印を出して、


 「よいか、我らはウガマール奥院宮の秘神官である。我は密神官にして教導騎士のウォラだ。昨夜、ここらを荒らしていた悪き神と、我らが奉じる善き神の戦いへ立会(りっかい)し、しかと善き神が悪き神を追い返すのを見届けた。これを奥院宮へ報告せねばならぬ。どうかその善き神へ、水と、食べ物、家畜を捧げ奉り願いたい」


 ようはタダで水と食い物と騾馬(ラバ)をよこせというのである。カンナは絶句したが、村人らはいっせいにウォラを伏し拝み、次々に水や果物や乾し肉などの食料、騾馬に牛、その他の物品や金品を用意しだした。さすがに多い。


 「いや、これでよい、これだけでよい……だいじょうぶだ、しかと感謝の気持ちは善き神へ伝わる……供物を出さぬものは利益が無いとか、そういうわけではない! この村を代表して……すこしでよい……金はいらん……だいじょうぶだ……こら、押すな……!」


 群がる群衆や家畜を前に、ウォラが懸命になだめる。けっきょく村長に出てきてもらい、代表して四人が充分にウガマールへ行けるだけの乾し肉と乾パン、大量の瓢箪水筒や封印された瓶に入った水、それらを積む騾馬を一頭、村人らの総意として受け取った。


 「有り難い。きっと善き神は、この村のことを忘れまいぞ」

 満足げにうなずき、出発しようとすると、村長が前に出た。

 「密神官様」

 「なんだ」

 「村で祠を建て、毎日拝みたいと存じます。どうか、その善き神の御名をお教え願えませんか」


 「そうか。それは殊勝なこと。神の名は……」

 云いかけ、ウォラは慌てて咳払いをした。


 「すまぬが、いずれわかる。まだ、善き神は、名を明かせない。悪き神と、最後の戦いを控えている。名を知られては、呪いにかかり、負けるやもしれぬ」


 「おお……!」

 村人が驚き、善き神の勝利を願って全員でウォラを拝みだした。

 それを後ろにし、四人は、夕刻前に、村を後にした。



 誰より驚いたのは、スティッキィとライバである。


 ウガマール語がよく分からずとも、状況と雰囲気で分かったし、その後カンナに説明してもらい、絶句する。


 いわゆる、カルチャーショックというやつだった。


 「いやあ……さすが、神秘都市ウガマールのおひざ元ねえ……あんな、神様がどうたらでねえ……」


 ストゥーリアでは、およそ信じられぬ。

 「ま、ああいう地方の村では、特にまだあのような土俗的な信仰が残っているのだ」

 「それを利用したっていうことねえ」

 「そういうことだ」

 ウォラはまったく悪びれない。


 信仰で人を支配するという現実を見て、ライバも押し黙っている。これから向かうのは、その総本山のさらに奥の秘所だ。


 「ウガマール語を覚えておいたほうがよいかもしれませんね……。ウォラさん、カンナさん、これからウガマールへ着くまでに、どうか、簡単な会話だけでもできるようにしたいのですが」


 「そうだな。それは、良い考えだ」


 ライバに云われ、今後は会話はなるべくウガマール語のみで行い、様々な単語を教えてもらいながら旅をすることにした。


 最初の村を遠回りし、ンゴボ川まで戻ったところで日が暮れ、その日は川沿いで休んだ。先日、身体を横たえた庵は、形もない。夜は星がよく見え、空は静かだった。


 ンゴボーラ山が遠くに漆黒の影を作っている。

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