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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第2章 2-2 つぶされた村

 あれほどの相手だ。カンナと、対等に渡りあうだけの。昨夜はたまたまカンナの意識が無く、無意識の攻撃で、周辺被害を考えずにその力を発揮し、相手を追い返した……。が、カンナの意識がある状態では、周囲の被害を気にし、全力を出せない可能性がある。さらに、次にもし同じ相手が現れたら、復讐に憎しみの牙を研いでいるだろう。するとどうだ。次は、


 (負けるかもしれない?)


 スティッキィは不安のあまり、めまいがしてふらついた。それをライバが支える。そして、耳打ちした。


 「だいじょうぶ。そのために、私たちがいる」

 「ええ……」


 二人をよそに、カンナは次第に何があったのか、理解して、憂鬱な顔つきで下を向く。この一面の焼け野原、舐めたように整地された痕跡。大地を抉る大穴は、自分の稲妻や衝撃波の跡だろう。デリナと戦った時のような。また、やってしまった。


 「カンナ、いまは考えるな。再びあいまみえるときが来るやもしれない。心身の調子を整えておけ。特にカンナは、精神的に細いところがある」


 「うん……」

 ウォラはそう云うが、そう云われても……といった心持だった。

 「とにかく、出発しよう」

 ウォラがきりだし、三人は気持ちを改めた。


 「なんだっけ……水筒やラバの補充に、近所の村に行ってみるんだっけ?」

 「そうだけど……」

 いやな予感がする。

 「どっちにあるんですか? その村」


 「最も近いのは、こっちだ。……ンゴボ川より用水路が引かれている。水路沿いに歩いてゆけば、そのうちつく」


 「川を渡る必要があるのお?」

 「いや、対岸ではない。こちら側だ」

 「行きましょう」


 少し川を下ると、幅二十キュルトほどの取水口があり、そこから石造りの水路がのびている。四人は、その水路沿いに歩いた。


 「うわ……」


 水路にそって歩いて、半刻もかからない場所の村だった。ところどころ灌漑用水路が衝撃で破壊され、水があふれているのを見て予想はついていたが、村は徹底的に壊滅していた。カンナだけの攻撃ではないのだろうが、雨のように降り注ぐ雷、そしてなにより人も家畜も建物も吹き飛ばす凶悪的な衝撃波。カンナの呼び起こす地震、謎の敵の呼び起こした巨大竜巻……それらが、こんな集落めいた寒村を滅茶苦茶にしたのは、むしろ納得以外の感情が出ないほどである。


 「……う……」


 カンナは、がっくりとうなだれ、いまにも膝から崩れそうだった。ごろごろと死体がころがっている。家畜や、村人の。それも、ひしゃげ、ねじれ、爆発している。おそるべき衝撃波の仕業だ。日が昇り、あっというまに無数のハエがたかっていた。


 「こんなところまで衝撃が届いていたとはな……」

 ウォラも、暑さではない汗が頬を伝う。


 「この村はだめだわあ。他に村はないのお?」

 スティッキィが、目を細め、厳しい顔つきで云う。

 「ここから半日ほど歩くと、次の集落があったはずだ……行ってみるか」


 用水路は、些少の水漏れがあっても全体に水量が減ることもなく、地平線の向こうまで続いていた。旧帝国時代の技術の高さを、現代まで伝えている。そもそも旧帝国や連合王国が衰退し滅んだ原因はパウゲン連山の大噴火にあり、気象の関係で火山灰があまりやってこず、ウガマール地方は影響が少なかったと伝えられている。当時の技術が最も色濃く物理的な形として残っているのは、むしろ南部大陸であった。


 水路ぞいに、一気に灼熱となった大地を歩き続ける。幸い、水路の水はかなり清浄で、問題なく飲めた。そうでなくば、スティッキィとライバはもたなかっただろう。


 昼も過ぎたころ、ようやく地平の奥に背の低い建物が見えてくる。泥や家畜の糞を固めた土壁に、芝を()いてある屋根の質素な半地下の家が整然と並んでいた。近づくと、騒然としている。理由は、容易に想像できた。


 村へ入ると、なんと、避難民がいた。逃げて助かった者がいたのだ。それだけで、カンナは救われた気がした。戦いが始まってすぐ……いや、あの天空を唸る爆音が近づいてきた時点で、すぐさま着の身着のまま逃げ出したのだろう。正解だった。


 南部王国系のウォラを見るや、何人かの村人が息せき切って話しかけてきた。この村の住民は、ほぼ南部王国系人種だが、北部人種の血液も少し混ざっているという混血だった。言語は、よくわからぬ地方語だ。バスマ=リウバの言語とも異なる。いくつかの村ごとに言語があった。


 「だれか、ウガマール語を話せないのか?」

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