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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第1章 5 時間稼ぎ

 ウォラがつぶやく。とんだ竜退治となった。カンナは、放心していた。無理もない。


 (……アーリーなら……もっと上手に倒してた……こんな……こんな戦いじゃ意味ない……こんなんじゃ……カルマじゃない……)


 だが、カンナがいなければ、竜の被害は同じことだった。みな、分かっていた。あんな怪物がウガマールのさらに南……密林と砂漠の奥地からやってくるなんて、夢にも思わなかった。


 (狙いは……カンナだ……ムルンベめが……)

 ウォラが怒りに顔をゆがませる。


 (だが……気になる……たとえ百足竜だとて、あんな竜ではとうていバスクスは倒せぬと分かって、わざわざ……なぜ……)


 焼け野原ごしにサティス内海の美しい水面をながめ、ウォラは沈思していた。

 そして、結論を導き出す。それしかない。

 「時間稼ぎ……か……」


 やはり、急がねばならない。本来であれば、ラズィンバーグでアーリーを待っているのが得策だろうが、事情が変わったため、先んじてここまで来た。ここで、向こうが時間稼ぎをしてくるということは、やはり焦っているのだ。急ぎカンナを連れ出して正解だった。ここで、最後の詰めをし損じてはならない。


 「カンナ、塞いでいても、しようもないことだ。出立するぞ」

 「……ラクトゥスの人たちを見捨てて、行くんですか?」


 「ちがう。サラティスへ救援を頼んだ。また、我等が行くことで、ウガマールからも救援が急ぎ来ることかできる」


 「わたしのせいで……街がこんなに……」

 「ちがう。カンナがいなければ、まだ竜が暴れている。同じことだ」

 「わたし、なんのために、ガリアが遣えるんですかね?」

 「む……」

 思いもよらぬ質問に、ウォラも、やや戸惑った。


 「それは……自らの意志に反して、という意味か?」

 「そう……そうです! わたし、ガリアなんて遣えなくても……いいの……に……?」

 カンナが額を押さえた。このことを考えると、頭痛がするのだ。

 (これは、再調整が必要だろうな……)

 ウォラが、座りこむカンナの肩を優しく叩き、立ち上がらせる。


 「ガリアは、天からの授かり物だ。等しくガリア遣いは、自らの意志とは相反してガリアを得る。得ぬ者もいる。あとは、神官長様へ聴け」


 「う、うん……」

 カンナのため息。ウォラは自己嫌悪に苦しむ。


 (私とて……全てを神官長様へ押しつけている……どこまで……そして、いつ……カンナへ真実を話すべきなのか……そのとき……カンナは耐えられるのか……)


 とにかく、出発だ。


 陸路を使う者は、ウガマールから密林と砂漠をぐるりと迂回して歩きに歩き、サティス内海へ到達した時点で、内海を渡る平底舟で対岸のラクトゥスへ行く。従って、対岸には、船着場と宿がある。別の村ではなく、ラクトゥスの一部である。いま、唯一無事なラクトゥスの施設といえる。


 対岸にあった船が焼け残っており、それへ乗ってカンナ達はラクトゥスを後にした。

 風の向きにもよるが、二刻半……四時間少々で内海を横断する。


 先日の竜の襲撃がウソだったように、内海は波が穏やかで、水面が光っていた。水平線の奥の外海は、春の吹き返しがおこり、白波が鉛色の海を跳びはねていた。


 対岸の、小さな集落は騒然としていた。竜の襲来と、今まで体験したことのない稲妻と地鳴り、そして竜が大爆発し街が昼夜と無く燃え続けた様は、全て対岸から見えていた。


 「おそらく、我等と入れ代わりにウガマールから人が来る。サラティスに救援は既に申しこんである。ウガマールの人間へ伝えてくれ。我々がもし途中で出会ったら、その旨は伝えるが、会うかどうかわからん。頼んだぞ」


 「へ、へえ……」

 船頭や集落の者へそう云い残すと、多めに駄賃を払い、四人は南部大陸へ足を踏み入れた。

 風が、乾いている。


 

 第二章


 1


 「さて、どっちへ行くか……」

 船付場の集落より南へ半日ほど進み、街道は大きく弓なりに曲がる箇所に行きついた。

 「……ああづううい……!」


 既に気温が信じられないくらい上がって、北国生まれのライバとスティッキィはくらくら(・・・・)している。ウォラはもちろん慣れたものだし、カンナもここにきて南国生まれの底力を発揮し、懐かしい熱気にむしろ気分が高揚していた。


 「なあんで、海をわたっただけで、いきなり、こんな暑くなるわけえ!?」

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