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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第1章 4-1 スティッキィの想い

 「ステッキィ、なにかあった? さっき、物音や声がしたけど……」


 たまらず、スティッキィはカンナへ走りよって強く抱きついた。びっくりして、カンナは身をすくめた。


 「カンナちゃん……あた……あたしは、マレッティと違う……あたしはカンナちゃんを見て……カンナちゃんの強さを見て、カンナちゃんと会って、話して……救われたの……救われたんだから……だから、何があっても、どこまでもついてくから……カンナちゃんが何者でも関係ないから……」


 「は、はい?」


 スティッキィはスターラの古い習慣で、親愛と忠節を示すため、カンナの両頬と額、唇へ軽く口づけし、そのまま膝まづくと、その右手を押し頂いて甲へ口づけした。


 カンナ、驚き、かたまりついて声も無い。

 スティッキィは立ち上がり、涙をぬぐった。

 「ごめんねえ、あたしの勝手な片思い! 気にしないでね!」


 気にするなと云われても……カンナの顔が引きつる。

 「ライバと、ケンカでもした?」

 「いいから、いいから……ごはんいきましょ? 高い部屋代なんだから、豪勢なんでしょおねえ?」


 当惑するカンナの手を握り、スティッキィが部屋を出る。フロアに彼女らしかいないので、鍵もかけぬ。同階の専用食堂へ集う。既にウォラが待っていた。三人のうち、湯を浴びてさっぱりしたのはカンナだけのようだ。


 「ライバはどうしたんだ?」

 「さあ、いないんだよねえ」

 席に着き、カンナがぼやく。


 「せっかく高い食事なのに……もったいないな。いらないならいらないと云ってもらえれば、そのぶん部屋代から引くものを……」


 ウォラの機嫌が悪くなる。思いのほか、吝嗇家(りんしょくか)だ。

 「ま、いい。せっかくだ、ライバの分も食べておけ」

 「は~い」

 カンナとスティッキィが同時に返事をし、卓へ並んだラクトゥス料理へ手をつける。


 ウガマールとサラティスの両方の特色の混じったラクトゥスは、どちらかというとウガマール七、サラティス三といったところだ。ウガマールでは石窯や、時には天日で焼いた薄焼きバンが主食だが、米も重要な主食である。料理の質や種類ではサラティスがもっとも発達しているが、食物の量では、いまウガマールは世界一の生産国だった。なにせ竜がほとんど来ない。これが大きい。ウガマールは食料を大量に輸出し、莫大な富を蓄えている。その衛星都市ラクトゥスは、優先的にその食料を格安で購入でき、ときには余った分を横流し、これも富を得ている。


 それはそうと、いま卓上には、ラクトゥス名物の長粒米と近海産の海産物のウガマール香辛料炊き(辛いパエリアのようなもの)を中心とし、カンナにとってはパーキャスで食べた懐かしい味である魚介の汁物や焼き物。サラティスから仕入れたバソ産の高級加工肉をウガマールの薄焼きパンで挟んだもの、生ウニや生ガキの魚醤かけ、大きなカニの蒸し物、近郊牧場産の牛や豚肉の焼き物が山盛りで迫る。酒は、もちろんウガマールで水代わりに飲まれている薄ワインや薄ビールではなく、サラティス産の高級品だ。


 ひたすら糧食をかじり続けていた一行にとって、久しぶりのまともな食べ物だった。

 「おいしいですね」


 カンナが上機嫌となる。ウォラも笑顔なので、何だかんだ云いつつも、うまいものはうまいようだ。スティッキィのみ、あまり食べ慣れない食事なので、味の強烈さに戸惑いながらそれらを口にしていたが、やはりうまいものはうまい。


 だが、やはり三人では食べきれなかった。いや、ライバがいても、この量は食べきれない。それほどの、昨今では贅沢な食事だった。 


 「いつも、奥院宮(おくいんのみや)より来る密神官達は、このようなものを食べているのか?」

 挨拶に来た支配人へむけ、ウォラがつい、口走った。

 「いつもではございませんが、今日は、しばらくぶりにこのお部屋をお使いいただきましたのもので」


 「そうか」


 ウォラはそれっきり、何も云わなかった。頑張って食べたのだが、食事の三分の一ほどを残して、一行は部屋へ戻って早々に休んだ。


 その夜半である。

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