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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第1章 3-1 水の中の夢

 「おそいわねえ」

 スティッキィがようやく声を出したころ、ライバがどこからともなく帰ってきた。


 「なにやってたのよお」

 「やたらと混んでまして……」

 ライバがそこで皆を集め、声をひそめた。

 「ラクトゥスで、ウガマール行きの船が止まっているようです」

 「なに……」

 ウォラの眼が光る。


 「その影響で、ここから出る船も立往生を」

 「それで混んでるのお?」

 「どうしますか、ウォラさん」


 それは、歩いてラゥトゥスまで行くか、という意味だった。ここから内海沿岸街道を歩いて、ラクトゥスまでは約七日だ。


 「ううむ……」

 微妙な日程である。行って行けない日数ではないが、この混雑が七日も続くのかどうか。

 「確実なのは、徒歩よねえ」


 ここまで来たように、ライバの瞬間移動を駆使すれば、七日を五日ほどに縮められるかもしれない。船がいつ出るか分からない以上、確実な方を選ぶ方が良いだろう。


 「よし、予定を変更し、歩こう」

 きまった。


 「宿も空いていないようだし、このまま出立するか……それとも、もうすぐ日暮れであるし、ひと晩くらい、ここに泊まるか?」


 「いやあ、ウォラさん、ですから、残念ながら空いてません」

 「では」

 ウォラが一同を見渡す。

 「出立だ」


 みな、荷物を持ち、ウォラに続いた。

 これまで野宿で来たわけであるから、ここから何日か野宿だとしても、なんら苦はない。


 サランテから街道を戻り、数刻を歩いたころには、とっぷりと日が暮れる。四人は簡易竈で火を起こして、糧食をかじると厚手のマントへくるまって横になる。いつものとおりだ。帝国時代よりの正規街道であるため、公設の井戸が各所にあり、たいていはその周囲が野宿の目安だった。カンナ達の他にも何人か陣取っている。


 カンナは、先日ラズィンバーグで買った竜鞣革のメガネ拭きの入った愛用の竜角削り出しメガネケースへメガネを入れ、ぼんやりと漆黒の曇り空を見上げている内に、ねむってしまった。


 その夜、カンナは夢を見た。


 具体的なウガマールの夢を見るのは、パーキャス諸島でクーレ神官長の夢を見て以来だったが、そちらはあまり覚えていない。クーレ神官長が側に立って、横になっている自分を見下ろしているが、画像がゆがんでいる。しかしそれは、メガネが無いからではない。ゆらゆらと光が揺れている。どうやら、自分は水の中にいるようだ。水の中にいるのに息ができているのは、夢だからなのだろう。周囲はすごく明るい。まぶしいばかりの光が、照りつけられている。なんの光なのか、想像もつかない。天井は明るいが、自分の周囲はくらい。まるで、石棺の中にいるようだ。


 と、神官長の他に、何人かの人物が自分を見下ろし始めた。


 純白にちょっと茶色い色のついたウガマール晒木綿(さらしもめん)の覆面のようなものをかぶり、顔が判明しない。眼のところも、空いているのかどうか分からない。文字のような模様が、顔に描かれている。


 そして、ぼそぼそと神官長と覆面たちが話し始めた。よく聴こえないが、途切れ途切れに水の中にも伝わってくる。


 「……ようやく……」

 「これで……」

 「……だ……」

 「……人目にし……」

 「おめで……」

 「……ガリアは……」

 「……には、およびま……」


 およそ、こんな調子で、意味は伝わらない。そうしている内に、カンナは水のなかでもねむってしまった。


 「カンナちゃあん、起きて……カンナちゃん?」


 スティッキィに揺すられ、カンナはどうにか眼を覚ました。眠れなかったわけではないが、まるで瞼がひっついたかのごとく、眼が開けられなかった。強制的に起こしてもらい、なんとか眼を覚ますことができた。


 「……う……むう……」

 頭を振り、ねむりから現実へ戻る。


 もう、簡易竈に火が入っていた。近くの井戸で、他に野宿をした小規模な隊商たちも水を補給し、湯を沸かして飲み、洗面をしていた。

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