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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第1章 2-3 モールニヤ

 ウォラは、あくまで淡々としている。ライバとスティッキィが、ちらりと見合う。

 「カンナさん、本当に……」

 「いいから!」

 「はい、すみません」

 ライバが身をすくめ、スティッキィがライバを肘で小突いた。


 四人は急に無言となり、気のせいか歩みも早くなって、サラティスへ向かう道の分岐点まで黙々と歩くと、そのまま、振り向きもせずに通過した。


 通過してしまうと、何かしらふっきれたのか、カンナの表情も明るくなって、さあ、ウガマールへ行くぞという気合も感じることができた。ウォラの表情も、心なしかゆるんでいるし、ライバとスティッキィも自然と雰囲気が明るくなる。


 そんな四人と、入れ違いに街道を行く隊商へまぎれ、フード姿の一人がふとカンナへ眼をとめた。


 (あっ……?)


 彼女は、すぐにそれが報告にあったカンナと気がついた。が、どうしてここにいるのか分からなかった。アーリーから、何の報告も来ていなかったから。なので、そのまま黙ってすれ違った。フードの奥の暗がりから、きらりと蒼く光る不思議な視線がカンナを射抜く。カンナは、まったくその人物へ気づかずに、そのままライバやスティッキィとおしゃべりをしながら歩いていた。


 そして人物は、スティッキィにも目をやった。本当に、マレッティとそっくりだ。マレッティの双子の妹だという、その容姿を、眼に焼きつける。


 完全にすれ違ってから、人物は街道の先へ視線を戻すと、そのまま、歩みを止めずに、サラティスへ向けて進んだ。


 彼女こそ、モールニヤであった。


 マレッティやスティッキィの先祖はトロンバーよりさらに北方の、いまは民族ごと行方不明になった北方遊牧民族であることは既に述べてあるが、モールニヤはその遊牧民族そのものである。竜と精霊を崇める巫女の血を引き、生まれつきガリアとは異なる不思議な力を持っている。それは、瞳が異様に光を反射し、キラキラと光って催眠効果を催すもので、モールニヤはその生まれつきの効果を活かし、カルマの裏の交渉ごとの一切を引き受けていた。もちろん、普通に戦っても、そこらの野良バグルスなど敵ではない。


 十一歳でカルマへ所属し、今年で十二年目になる。可能性は85。実はアーリーを除いて、名前の出てきているカルマのメンバーでは最古参だった。死んだオーレアよりも古い。そして、そのカルマ加入最年少記録は、未だに破られていない。


 春の温い青空に、霞がかかっている。

 



 サラティスへ向かう街道をそのままウガマール方面へ進むと、やがて南へ抜ける分岐点が現れる。ここを南すなわち内海の方角へほぼ一日歩くと、「サラティスの玄関」たる港湾施設サランテに辿りつく。小さな港だが、古来よりサラティスの衛星都市であり、ストゥーリアの玄関たるベルガン、ウガマールの玄関たるラクトゥスと合わせ、三大中継港だ。その中で、それらを繋ぐ中間地点のリーディアリードだけが独立している。四つ目の都市国家というわけだが、規模的には町国家というほどだ。それでも、四つの港の内、リーディアリードが最も大きな港なのは、第二部で記してある。


 ウガマールまでは陸路でも行けることも、既にのべている。カンナが、ウガマールからサラティスまで歩きとおしてきたことも。帰りは、船を使う。サティス内海はほとんど巨大な湖であり、非常に水深が浅く、潮の満ち引きによっては広大な干潟が出現する箇所もあって、底の平らな川船でなくては進めない。ラクトゥス~サランテ間の内海専用の交易船を使う。ラクトゥスからは、外界を渡る大型帆船がラクトゥス~リーディアリード~ベルガン、そしてパーキャス諸島を行き来している。


 ちょうどサランテへ着いたころ、夕方だったので、カンナは広大な水面に夕日のまぶしく反射する黄金色の光景に眼を奪われた。何とも云えぬ美しさだ。ウガマールのウガン川の河口ともちがう、独特の清浄な空気感がある。


 「宿を探そう」


 ウォラが通りを見渡してつぶやく。人口は二千そこそこの街だが、交易港でもあるので、倉庫が立ち並び、荷馬車の行き来する通りは広い。隊商の宿泊する施設も充実している。


 「私が、見繕ってきます。みなさんは、ここでお待ちを」


 ライバがそう云うや、人ごみに紛れて、そしてガリアの力で消えてしまった。人々は見ているようで見ていない。人が瞬時に消えようとも、気のせいとして脳が判断する。


 残った三人は特に話すこともなく、港近くの広場から雑踏や海の情景を眺めていた。逢魔が時はすぐに過ぎて、夕日に光っていた海面が闇に埋もれてゆく。

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