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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第1章 1-4 マレッティの吐露

 「な、な、な……」

 グッ、と一回、息をのむ。

 「何を云ってるのか……ぜんッッぜん、わっかんないわよおおおおお!!」

 「落ち着け、マレッティ!」


 「せっ……聖地……聖地って……あの、聖地ピ=パのこと……!? そこでっ……デリ……デリナッ……デリナ様が……なんですって……!? カ、カ、カンナちゃんが……ウガマールで……なんですって!?」


 「マレッティ!」

 引きつけを起こしたマレッティを、アーリーがやおら、抱きしめた。

 「う……!」


 背丈的に、アーリーの巨大な胸へマレッティの顔が埋まる。その高い火竜の体温と、独特の匂いがマレッティの脳を刺激する。アーリーの隆々たる鋼の筋肉が、やさしくマレッティを包んだ。


 「マレッティ……落ち着くのだ……これまで……隠し、騙していてすまなかった……。だから……デリナを……デリーを……頼む……」


 「う……う……」

 マレッティ、急に、涙が出てきた。止まらなかった。

 「うあああああ!」


 泣いた。泣きじゃくった。何の感情なのか……自分でも分からない。ただ、精神をリセットするために、身体が自動的に泣いているのかもしれない。とにかく、これまでの全ての記憶が如実に脳裏へ浮かんできた。実家が突如として破産した日。遊廓に売られた日。初めて客をとり、痛さと不快で精神が壊れた日。地獄のような、三年の日々。母親と妹を殺した日。逃避行のすえ、ラズィンバーグでデリナと出会った日。そしてカルマで、アーリーやオーレアと出会った日。オーレアを殺した日。……カンナが現れた日。


 全てが、脳を錯乱させる。

 しかし、いま、そんなマレッティを、アーリーはただ、無言で、強く抱きしめた。抱きしめ続けた。


 その熱さの中で、やがてマレッティは静穏を取り戻した。

 「……あっついから、離れて!」

 嗚咽を漏らし、まだ流れ出る涙を懸命にぬぐう。

 「マレッティ……」


 「わ、わかったわよ。聖地でもどこでも、行ってやるわよ。行って、デリ……デリナ様を、アーリーに代わって助ければいいんでしょお!?」


 「そうだ」

 「どおおやって行くのよお!? 道なんか知らないわよお!?」


 「パオン=ミとマラカをつける。トロンバーで合流しろ。そこへホルポスから派遣された竜が迎えに来る……それでリュト山脈を越えるのだ。向こうへゆけば、ガラン=ク=スタルだ。まだ、ホルポスの影響圏下にある。おそらくシードリィが、聖地の近くまで案内してくれるだろう。そこからは……まかせる」


 「ええ、ええ……任せてもらおうじゃないのよお。だけど……いいの? あたしは……」

 マレッティは、そこでややしばし絶句していたが、意を決した。


 「あたしは、オーレアやフレイラを!!」

 「分かっている」


 マレッティが、アーリーを見上げた。アーリーの瞳は、慈愛に満ち、そして怒りと憤りに燃えていた。マレッティ、また、たまらなく涙が出て、視線を外す。


 「マレッティ……これは、私自身への怒りだ。私自身への憤りだ。私とて……自らの目的のために……様々なものを欺き……犠牲にしてきた。とても褒められるものではない……その中には、デリナもいるのだ」


 (そして、カンナすらも……)

 アーリーは思わず目をつむり、身震いした。

 「デリナ様を……!?」

 二人の関係を、マレッティは薄々気づいていた。過去に、いったい何があったのか。


 「だが、全ての答えは、近づきつつある。長い旅の終点が。どうか、もう少し協力してほしい。報酬は、望むままだ」


 「分かってるわよお……そんなこと……」

 マレッティ、今度こそ、涙をぬぐいきり、ふっきってさっぱりした顔を見せた。


 「それで、あたしは聖地とやらでデリナ様を助けて……アーリーとカンナちゃんは、ウガマールからどおすんのよお」


 アーリーが、にやっ(・・・)と笑った。

 「そちらも、任せておけ。聖地と聖地は……つながっているのだ」

 「はあ……?」


 マレッティ、これ以上の意味不明な説明はたくさんと、話を打ち切った。とにかく、自分がデリナを助ける……この一点に、集中する。


 その後、二人はしばし談合した。そして、

 「……では、聖地で会おう!」

 アーリーは、勢いよく退室した。バアン! とドアが跳ね返り、蝶番(ちょうつがい)も外れて完全に傾いだ。

 「まったく……」

 マレッティ、ようやく一息つく。

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