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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第1章 1-4 ガリア

 「いいことお、カンナちゃあん。この街の竜退治請負人の組織はねえ、可能性で全てきまるの。それが『掟』よお。可能性40未満がセチュ。バスクじゃないわあ。六百人……六百五十くらい、いるのかしらあ? だいたいはみんな他に仕事しててえ、たまに竜退治のお手伝いで副業してるのよお。衛兵や斥候を専門にしてる人もいるわあ。バスクと呼ばれるのはあ、可能性40以上よお。40から59までがモクスル。これが、いま何人だろ……三百人くらいかな? で、60から79までがコーヴ。コーヴはいま、四十七人よお。いっつも五十人前後なの。そして80以上だけ所属できるのが、栄光のカルマなのよお! サラティス一千人のガリア遣いの中で、カルマはこの五人しかいないんだからあ! だいたい、新人も多いけど、『同じくらい死ぬ』から、いつまでたっても数がふえないのよお!」


 「ふぇ……」


 「じゃあ! じゃあね、ガリアを見せてもらおうかなあ! カンナちゃんの! だって、みんなで竜を倒す仕事もあるんだからあ! どんなガリアか知らないとねえ……」


 楽しそうにマレッティが高音を大広間に響かせる。だが、アーリーがさっそくあわてて右手を振ろうとしたカンナを止めた。


 「待て。先に我々から手の内をあかすのが礼儀だろう」


 云うが、アーリーの右手が大きく振りかざされたかと思うや、彼女の身長よりも巨大な長鉈のようなものが出現した。全体の三分の二が片刃の巨大な剣で、三分の一が両手持ちの柄になっている。ギラギラと赤銅色に輝き、熱気で陽炎を発していた。


 「炎色片刃斬竜剣(えんしょくかたばざんりゅうけん)だ」


 すげえ名前だ、とカンナは思った。が、アーリーはすましたもので、

 「見てのとおりだ。何の工夫も無い」

 そういうものなのだろうか。


 「じゃ、あたしい!」


 高いマレッティの声と同時に、閃光がカンナを刺した。窓よりの斜光よりまぶしい。マレッティが光度を落とすと、そこらにありそうなカウル状の手甲のついた、地味な片手持ちの細長い刺突剣が明滅を繰り返して光っていた。ただ、全体の長さは彼女の身丈に合わせて、男性が持つものよりやや短い。


 「ま、光剣ってとこねえ。あんまり勿体ぶった難しい名前をつけるのは苦手なのよお。でも、他のバスクは、円舞光輪剣(えんぶこうりんけん)って呼んでるわあ」


 「おれのは、これだぜ」


 フレイラの手には、一キュルト(十センチほど)の太い針が三本、あった。その手を交差すると、六本に増えた。


 「幻麻針(げんましん)だ」


 にやり、と笑ったその口元と眼は、とても先ほどの快活な雰囲気ではなかった。


 「じゃ、カンナちゃんの番!」

 「はっ、はい……でも、とてもみなさんのような大層なものでは……」


 「しんぱいないわよお! 少なくともガリアが出せるんだからあ! 修行と戦いの中で、強くなっていく人だっているんだしい」


 三人の失望と嘲りの顔を想像しつつ、カンナは右手を振った。

 「……!」

 一同が息をのむ。


 カンナの手に、彼女の髪と同じく、漆黒の中に微細な光の粒が混じった柄の長い両手持ちの剣が現れた。剣身には、闇夜を引き裂く稲妻のような、黄金の線模様が走っている。しかもその剣身は漆黒ながら角度によっては半透明に透けて見えた。その透明の中に、液体のように何かが流動しているのが見える。


 「かあっこいい!」

 蒼い眼をさらに丸くして、マレッティがその剣ごとカンナの手を握った。

 「わっ! かっるうい! まるで木の剣みたい……」


 「カンナの細腕で振り回すから、軽いんだろうな。で、その黒い剣にゃ、どんな『ちから』があるんだ?」


 「どんなって……」

 カンナは当惑した。実は、これまで一度も竜と戦ったことが無いからよく分からない。


 「私が観たところ」

 アーリーが斬竜剣を杖にしてその大きな身体を屈め、黒剣をみつめた。

 「……これは雷撃だろうな」


 「わっ、カミナリぃ!? モルニャンちゃんとおんなじってことお!?」

 雷撃……カンナは心の中でつぶやいた。そうなのだろうか。


 「珍しいっすね。カルマで同じ力がカブるなんて」


 「そうでもない。これまでもあった。人の資質の種類など、そう数あるものではない。似たような力のガリアを遣うものは、たとえ数の少ないカルマでもいる」


 「へーえ」

 「あんたの嫌らしい針チクチクが、変わってるの!」

 「大きな世話だぜ」


 「カンナ、最初は死なないことだけに気をはらえ。無理にその黒剣を遣おうなどと考えるな。自然に、自分の秘められたガリアが目覚め……黒剣は真の力を発揮する。それが、我等、ガリア遣いとしてのバスクの基本だ」


 「そうでしょうか」

 「そうだ」


 己のガリアを消し、アーリーはまた自分の椅子へ戻った。音を立てて座り、脚を組んで片腕で頬杖をついたまま、瞑想に戻る。


 「へっ、そうはいうけど、カルマにいるかぎり、出し惜しみしてたら、たちまちおっ死ぬぜ。せいぜい本気出しなよ」


 フレイラが苦笑をまじえてカンナを見た。その眼は冷たく光っている。カンナは胃が痛くなった。


 「じゃ、部屋に帰るわ」

 フレイラは螺旋階段から階下に消えた。

 マレッティは、カンナの手をとったままそれをぶらぶらと揺らし、


 「ねえ、カンナちゃあん。歓迎会してあげる。ごはんたべにいこ? ……と、そのまえにい、お風呂入りましょうよお。くさいわよ?」


 カンナは羞恥で大汗をかき、倒れそうになった。

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