第3章 4-6 竜真人
「スティッキィ!」
「なによお!?」
状況に戸惑うスティッキィが身を震わせた。
「ガラネルを倒す!」
「ハアア!?」
云うが、パオン=ミが走った。ぐるりと回りこむ。死体どもが行く手を遮ったが、バグルス達がカンナを向いているためガリアが遣える。
「邪魔ぞ!!」
火炎符が火をふき爆弾となって居並んで蠢く死体たちへ突き刺さる。人間一人など、粉々に燃焼爆破する威力だ。死体たちが火と黒煙を放って爆破され、道を開けた。
スティッキィも逆回りに走り、意を決して闇星を放ち、死体どもの足を切り飛ばす。ゴロゴロとひっくり返って、その場でのたうつか這いつくばってスティッキィを追うのがせいぜいだ。
挟撃され、ガラネルがガリアの銃、紫禁星天竜騎銃を構えた。なんと、短ライフルと拳銃の二丁銃だ!
「何を血迷ってるのかしら!? カンナに注目しなさいな!」
バウン、バウンと銃声がしたが、パオン=ミもスティッキィもそれぞれ弾丸をガリアの力で防ぐ。
その隙にガラネルは走っていた。銃の間合いを確保する。
「待て!」
追いすがるパオン=ミへ、拳銃を消し、ライフルを構えたガラネルが連続して発砲する。とても実際の石打ち式銃ではできない芸当だが、ガリアなので可能だ。パオン=ミが必死に弾丸のタイミングを計って符を張り巡らせ、攻撃を防いだ。
「あ~ら、カンチュルクの空飛ぶねずみが気張っちゃって。もし死んじゃっても、あたしが召使としてしばらく生き返らせてあげるから、大丈夫よ?」
そう云って高らかに笑う。
「何を云うか!!」
冷静なパオン=ミがディスケル=スタルの共通語で返すほど激高するが、
「パオン=ミ、あいつ、時間を稼いでるわあ、なにか企んでるわよ!」
云われ、はたと我へ返る。カンナを振り返ると、蠢く電光に包まれて、見たこともない姿へカンナが変貌しかけている。
背がぐんと伸び、着ている服はいまにも引き裂かれそうなほどだった。しかし、横幅が変わっておらず、手脚が異様に長い、非人間的な姿だ。鱗は純白に輝き満ちて電光を映し、黒髪も自ら微細な光の粒を放っているかに見える。まだ顔にひっかかっている眼鏡が、かろうじてカンナの面影を残していた。
「あれは……」
立ち止まってパオン=ミが震えだした。
「バグルス完成体……はたまた、竜真人……さて、どっちかしら」
パオン=ミのすぐ横で、顔を近づけ、耳元でガラネルがささやいた。
「其方……」
パオン=ミ、びびって固まってしまった。いつのまにここまで接近したのか。どこまで知っているのか。
「人工的に作ったって、どうせうまくいかないと思いこんでたけど……。どうやら、そうでもなさそうね。やっぱり、あの子は私がもらってくわ」
「そうはさせ……」
呪符を出すパオン=ミの顎下へ、瞬時に銃口が突きつけられる。動けぬ。全身を汗が伝った。
「脳天ふっとんでから、好きなだけ後悔してちょうだい」
石打が動いた。
バアン! 銃声が轟いたが。パオン=ミの足元を傷つけぬよう闇星がひっかけて、パオン=ミが横倒しにひっくり返って、結果として助かった。
「とぉおお!」
視界を奪うべく闇を振りまきながら、スティッキィが突進して果敢に剣を振りかざす。
「なまいきなのよ!」
銃声が闇へ向かって連打される。闇星が弾丸を弾く。闇へ紛れて、スティッキィが一足跳びで剣の間合いに入った。
だが、なんと折りたたまれていた銃剣が突き出て、手槍のようになって剣先を擦り払いに受け流す。
体勢を崩しながらも踏みとどまり、スティッキィが反転して遮二無二、突きかかった。しかし、相手が剣やらの手持ち武器ならいざしらず、銃だ。ガラネルめ、そこから散弾! しかも連発!
咄嗟に防御を張ったが、闇星をすり抜けて、粒弾の一部がスティッキィの右肩の肉を抉った。
「ウアッ……!」




