第2章 4-4 短期決戦
「ユホ族の村に近づいて、それからどうするの?」
カンナが小声で尋ねる。カンナの情緒が不安定だったので、あれから、食事をして寝てしまった。打ち合わせは道中で行う。もっとも、その分、パオン=ミとスティッキィでみっちりと談合している。
「既に下調べは住んでおると云ったであろう」
「だから、どうするの?」
「短期決戦ぞ」
パオン=ミがにやっと笑って、それから殺人者の眼になった。
「暗殺よ」
カンナが目をむいて絶句した。
「しんぱいごむよお! カンナちゃん、あたしを誰だと思ってるのお? 天下のメストよお? 竜やバグルスを倒すより、そっちが専門なんですからあ」
「で、でも……」
相手はダールである。しかも、どこにいるのか既に分かっているというのだろうか?
「ガラネルではない」
パオン=ミはしかし、カンナ不安をよそに、さも当然のように云った。
「じゃ……だれを?」
「そりゃ、教団の幹部よ。その他の信者などただの村人。頭を獲れば、勝手に霧散してくれるわ。そうしてるうちに、向こうから勝手にやってきてくれるという寸法よ」
「だれが?」
「ガラネルよ」
カンナがまた絶句する。うまい策に聞こえるが、そう、うまくゆくのだろうか。カンナは眉をよせた。
「不安か?」
「それは……」
そうでしょ、という言葉をのみこむ。
「ま、見ておれ」
パオン=ミが、頼もし気な笑顔を見せた。
天気が良く、小春日和となった。標高の高い都市内と比べても、暑いくらいだ。街道から細い道が縦横に伸びて、台地の上の平原や岩場をつっきり、または森を抜け、各々の村へつながってる。分岐点には立札があり、村の名前があった。街道はこのままゆるやかに台地を下ってゆくが、彼女らは、横道へ逸れる。
つまり、ユホ村へ向かう。村というより、集落という規模であるが。
ユホ族の村は森林地帯のはずれにあり、ユホ族は自給自足でささやかな畑を作り、またラズィンバーグへ出稼ぎに行き、隊商に交じって交易の仕事を得ている。中には、ガリア遣いとして主にサラティスで稼ぐ者や、ナタルナタルのように市内の飲食業で成功している者もいる。
台地は森林や起伏で分断されてあまり見晴らしがよくなく、それぞれの部族は近い範囲の中で集落が点在している割に、行き来が頻繁ではない。まして、かつては敵対していた部族同士などは、何十年も行き来のないところもある。
街道と云っても支道なので狭く一本道になっており、集落へ近づくにつれ、どこからか見られているような視線も感じる。現に、三人がひょいと草原へ入り身を屈めると、しばらくしてどこからともなく数人の武装した見張りがやってきて、三人が消えたのを不思議がって周囲を探索し始めた。
三人はそれを確認し、速やかに藪を抜けて集落の裏手へ周り、遠巻きに村を観察する場所を得た。
「なんと、物騒だのう」
パオン=ミが遠眼鏡を覗きながらつぶやく。見張られていたとは。
「それにしても、物々しい」
「なにか、あったのかしらあ」
スティッキィも遠眼鏡で、素早く集落の全体を見渡した。カンナも真似をして遠眼鏡を覗いているが、どこを見ればよいのかすらよくわからない。ついつい、きれいな黒地に赤い線模様の鳥を見つけて見入っていた。
「ねえ、パオン=ミ、あたしよくわかんないけど、神殿とか? そういうのは無いの?」
「わからん」
ぶっきらぼうにパオン=ミが答える。
「なによ、調べたんじゃないのお?」
「調べたとも。数日前はあった。確かにな。真新しい、大きな集会所のような建物がな。中には、スーナー村の集会所のものと同じような祭壇と、生贄台と……紫竜の紋章も掲げてあった。それが、跡形も無くなっておるわ。そんなことができる人出があるとも思えんがな……それに、あんな見張りもおらんかったぞ」
「どういうこと?」
「だから、わからん」
カンナは、さっそく嫌な予感がしてきた。




