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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第5部「死の再生者」
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第2章 4-3 カンナの問題

 「仕事柄、の」

 「それにしても、なんとか教団派の筆頭がユホ族とはねえ……」

 「そこに気づいたか。さすがよの」


 二人の会話に、カンナが焦る。パオン=ミの説明も長くて途中から耳に入らなくなったし、今の会話も何を云っているのか全くわからない。


 「ねえ、ちょっと、どういうこと!?」


 「落ち着け、カンナよ。下調べなどたやすいものよ。我に任せておけ。いま云うたのはな、ほれ、ナタルナタルだか云う、あの居酒屋の連中、ユホ族であったろう。四年前の宝石商の事件と、実は密かにつながっておった可能性が出てきたということよ」


 「だから、なんなの?」

 パオン=ミ、ちょっと言葉を失ったが、

 「ユホ族に近づけば、ガラネルが潜んでおるだろうということよ」


 「わかった」

 カンナが立ち上がった。

 「なにがわかったのだ……待て! 落ち着いて、座るがよい」


 「座ってる場合じゃないでしょ!」と、カンナは云おうとしたが、これは自分の問題である。一人で焦っても、どうしようもない。それは、理解しているつもりだった。黙って座って、深呼吸をした。


 「カンナよ……」

 パオン=ミが息をつく。

 「焦る理由は、我らに話せぬことか? ウガマールの、極秘に関することか? 」

 カンナの頬がひきつった。


 「それは……そうでもあるし、そうでもない……というか……」

 また、パオン=ミとスティッキで眼を合わせる。

 「わたし、あたま悪いから、どうしていいのかわかんないの」

 「あたま悪い人が、あんな難しい言葉が理解できるわけないでしょお?」


 スティッキィが席を立ち、カンナの後ろへ回ると、両手でその両肩をポンと叩く。そのまま、緊張して強張っている筋肉を揉みほぐした。カンナが、ちょっと緊張を解き、小さく息をついて弛緩するのが分かった。


 「わたしは、どこまでもカンナちゃんについてくだけよ。ただついてくだけ。理由なんかいらないからあ!」


 カンナは当惑げにスティッキィを振り返った。その笑顔が、どこかマレッティと違って、影はあるが裏が無い。


 「あんたはどうなのよお」

 「我は命令に従うだけよ」

 パオン=ミは、さも当然のように云う。

 「カンナを護れという命にな」

 「じゃあ、なんだっていいじゃないのよお」


 「もちろん、よい。だがよくないともいえる。カンナを護るというのは、ただ生命や肉体におよぼす危機を取り除くだけではないからの……話せる範囲でよいから、相談はしてくれ。なんでもするからのう」


 カンナはうつむいた。涙が出る。

 「……でもごめん、これは、わたしの問題だから……」

 スティッキィが片眉を上げ、小首をかしげる。パオン=ミもそれを見て、


 「ならばよい! 何も聞かぬ。そのかわり、こちらは勝手にやるぞ。そして、これだけは肝に銘じよ。小賢しいことは、すべてこのパオン=ミにまかせておけ! 其方は、余計なことは考えるでない。よいな!」


 カンナはとにかく、この感情を何と表現すればよいか分からなかったため、ひきつったままの泣きそうな笑顔で、ただうなずいた。



 翌日、さっそく朝方より都市を出る。


 すみやかに大通りから大階段を抜け、正門を通り、都市の下部に出た。下から見上げると、古代帝国の超技術で造られた巨大な石垣の迫力は、他の都市にはない独特のものだった。


 そのまま折れ曲がる山道を進むと、やがて麓へ向かって右側に、バソ村へ行く山岳街道の分岐点が。そしてそこをまっすぐ下ると、サラティス平原に続くサラティス街道が見えてくる。街道の行き着いた先には丁字路があって、向かって右へ行くとサラティス、左へ行くとホールン川があり、現在は街道がそこへ行く途中で途切れている。が、川を超えると竜の国……すなわちディスケル=スタル帝国のグルジュワン藩王国に到る。


 黒竜国。デリナのいる国だ。


 サラティス街道は森林や平野を越えて南下し、やがてその東西の分岐点へ到るが、その途中のラズィンバーグ台地ともいうべき開けた高台に、周辺諸部族や宿泊村、都市労働者の住宅地が点在している。


 三人はすみやかに、ラズィンバーグで勤務する人々の列に逆らって道を下った。

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