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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第5部「死の再生者」
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第2章 4-1 キリペの手紙

 しかし、まずはモールニヤからの手紙だ。カンナにとって幻のカルマ。話だけで一度も会ったことのない、カルマ第四の人物。


 ウガマール紙の封筒には、カルマの封蝋があり、封を解くと短い手紙が出てきた。ストゥーリアでも見たことがあったが、独特のくせ字で読みづらい。が、それが逆にモールニヤ本人のものと分かる。


 内容は、なんのことはない、「ウガマールからのお客様を紹介します、くわしくはその人に聞いてください」 これのみだ。


 もう少し、何かあってもよいと思ったが、モールニヤというのはカルマの中でも特殊な人物というか、特殊な立ち位置だと薄々わかってきたので、カンナは早々にその手紙をうっちゃり、クーレ神官長の手紙を手にした。


 これも間違いなく、ウガマール奥院宮(おくいんのみや)の封蝋がしてある。ウガマール紙や押されている印璽ももちろんだが、ただの封蝋ではなく、蝋がここら辺の蜜蜂由来の蜜蝋ではなくウガマール特産のヤシの一種の実から採取するヤシ蝋であり、しかも奥院宮特注の超高級品であって、絶対に贋作ではない。


 それをやぶり、中から手紙を出した。ウガマール文字であり、この中ではカンナとキリペしか読めない。いや、キリペも読めない。古代サティラウトウ帝国時代以前より連綿と使用されている、ウガマール奥院宮の古代秘神官文字だ。間違いなく神官長の筆跡であり、署名も間違いない。完全に、カンナあての密書であった。


 カンナは読み終わり、茫然と虚空を見つめた。

 「……何と書いてあった? 云えぬ内容か?」


 パオン=ミの問いに、カンナ、しばらくそのまま茫然としていたが、やがて意識を現実へ戻した。


 「……ウガマールへ帰って来いって」

 「なんと……!」

 パオン=ミは絶句したが、

 「な、何故(なにゆえ)に?」

 「よくわかんないけど……」

 カンナは顔をしかめ、考える様子を見せたがすぐさま、

 「よくわかんない」

 と、断言した。パオン=ミとスティッキィが横目で見合う。


 「いそぐのお?」

 「うん……まあ、いちおう」

 「だあめよお、アーリーに云われてるでしょお?」

 「うん……」

 カンナはまた苦悩に顔を歪めた。


 「期日を定められておるのか?」

 「いや、そういうわけじゃないけど……なるべく急いで帰んないと……」

 「いつまで待てる?」

 パオン=ミは、これはキリペへ尋ねた。


 「私は使者にすぎません。カンナさんを無事にウガマールへ連れてゆくのが使命です」

 パオン=ミが唸った。思案のしどころだ。


 「実を申せば我ら、ラズィンバーグ都市政府発注の仕事を請け負ってしまっている。最低でも、それが終わらねば、行けん」


 「そのお仕事は、どのくらいかかりますか?」

 「わからぬ。終わるまでよ。一年か、二年もかかるやも」

 キリペとカンナが同時に答えた。

 「私はかまいませんが、カンナさんは……」

 「それはだめ! ぜったいだめ!」

 三人がカンナを見つめる。

 うつむいて、青ざめ、小刻みに震えていた。


 パオン=ミ、「よくわからない」というのは嘘で、深刻な問題が発生したのだと看破する。しかし、それは口には出さなかった。


 「……では、如何(いかが)する?」

 カンナはうって変わって、キッと顔を上げた。


 「一か月くらいで、やっつけよう。そうしたら、アーリーも来るかもしれないし。パオン=ミ、アーリーヘそう伝えて。念のため、スティッキィも、マレッティにそう伝えてちょうだい。お願い」


 また、パオン=ミとスティッキィが横目で見合った。

 「あ、ああ……わかった」

 そういう他はない。


 「そういうわけだ。キリペとやら、しばし、この街へ滞在し、都市政府よりの依頼が終わるのを待ってもらいたい」


 「わかりました。私も、お手伝いできることがあれば、何でもします」


 キリペは笑顔でそう云い、パオン=ミも手伝ってほしいことがあればこちらより連絡すると云うと、キリペは連絡先として泊まっている周辺村の安宿をメモ紙に控えた。


 「長期滞在は想定していなかったので、旅費があまりありません。もちろん、手紙をやってウガマール政府へ請求しますので、ご心配はいりませんけど。それにしても、市内のホテルへ泊まる余裕はありませんので、しばらくそこにいます」

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