表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第5部「死の再生者」
362/674

第2章 1-5 4年前の事件

 「マレッティさん……そう、私たちは美人なんで美人先生と呼んでおりましたが、ストゥーリアから来た剣術遣いの方が、そこの廃屋……以前はラズィンバーグでも名の知れた宝石商でしたが、そこの若奥様の命を助けたというので、お店の用心棒になったんです、ええ。と、云いますのも、ちょいと、後妻の若奥様と、前妻のお子さんの若旦那で揉めましてね……なにせ財産が財産でしょう、相続関係で、きな臭いことになりかけてたんですよ、ええ。それで、マレッティさんは、この店にもよく来てくだすって、うちのタノーラなんかとすっかり仲がよくなりまして。気前がいいし、腕っぷしも強いし、器量もよいしで、我々もすっかり美人先生、美人先生と呼んで、よくしてもらったんです。ですが……そう、一か月くらいたったころでしたかねえ、夜半に、ちょうどここで飲んでいたときに、お店から使用人がすっ飛んできまして、すわ若奥様を狙う賊の襲撃かと、マレッティさんも慌ててお店に向かったんですよ。そして……朝になったら、地下室で全員殺されてたという……」


 「ちょっと待て」

 パオン=ミの眼が光る。

 「地下室で全員とは、いかなることか?」


 スティッキィとカンナも、パオン=ミを見つめた。マイネルも、今の話のどこに分からないところがあったのかという顔だ。


 「と、申しますと?」


 「賊が入って、用心棒のマレッティが助けに向かって……あやつのことだ、容赦なく戦ったのであろうことは想像に難くない。店の中の到る所に、死体があって然るべき。それが、地下室に全員おったと?」


 「詳しいことは分からないんですよ」

 すかさずパオン=ミが袋へ手を入れたが、


 「あ、いえ、違います。お心づけが足りないって意味じゃないんです。本当に分からないんです。都市政府が捜査に入ったんですが……すぐにああいうふうに封鎖されて……マレッティさんも行方不明に。家を出てた若旦那すら、どこかへ行ってしまったんです。マレッティさんの死体がなかったというのは、なんとか教えてもらったんですがね。旦那さんはもちろん、若奥様も殺されました」


 「ほう……」

 パオン=ミが袋より手を戻し、うなずいた。


 「若奥様は、スネア族のご出身でした。この街じゃあ、私たち周辺諸部族は、あまり出世できないのがしきたりで……ここら辺の出世頭だったんですよ。私はユホ族っていうんですが、似たようなもので……それがねえ、あんなになっちまって……ですから、マレッティさんがまた戻ってきたら、あの夜にいったい何があったのか、ぜひ教えてもらいたかったんですよ」


 「なるほどな」

 納得したようで、パオン=ミも黙ったので、マイネルが席を立った。


 「これも何かのご縁ですから、どうぞ御贔屓に。いつまでラズィンバーグに? ずっとお住まいに?」


 パオン=ミが黙ったままなので、スティッキィが答えた。

 「え、ええ、まあ、所用でしばらくは……」

 「そうですか、では、ごゆっくり」

 行ってしまった。


 言葉を濁したスティッキィに、パオン=ミはよくやったと目くばせした。余計な情報は、与えないほうがよさそうだ。カンナだけ、ポカンとして眼鏡にランタンの光を反射させている。


 「あっ!!」

 突如としてカンナが叫んだので、二人が驚いた。

 「い、如何(いかが)した!?」

 「注文とるの忘れた」


 パオン=ミとスティッキィが、同時に大きな嘆息をはいた。

 舞踊が、一曲終わって、拍手が、鳴る。

 


 2

 

 その後は、ナタルナタルで適当に飲んで食べ、他の店も開拓しつつ、数日が過ぎた。アパートには台所もあったので、スティッキィが手入れをして火を入れなおし、手料理も作るようになった。


 「これはよい、打ち合わせのある日は、こうしようぞ」


 スティッキィのストゥーリア料理は、この街で仕入れる材料が良いのと、自身が中堅階級出身というので、しみじみとしつつ、なかなか豪勢な家庭料理だった。


 「マレッティは、料理なんかしてるのいっかいも見たことない」

 カンナは驚きの眼で双子の妹を見つめた。

 「あの子は、昔からそういうの興味ないのよお」


 根菜と豆と豚スネ肉の鍋物に、白パン、そしてネギと豚バラ肉の燻製の炒め物だ。

 「鳥の肉ばっかりで、豚なんて高かったわよお」


 ラズィンバーグは土地柄か野鳥の肉が食卓の中心で、家畜家禽の肉は贅沢品だった。またワインもあったが、パオン=ミはここでも薬草茶のようなものをどこからか買ってきて、自分で淹れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ