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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第5部「死の再生者」
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第2章 1-4 美人先生

 案内しようとした、周辺諸部族らしい、褐色の肌に黒髪、そしてカンナよりやや薄い碧の眼の女性が、三人を観て固まりついた。


 「……美人先生じゃありませんか!!」


 両手で口をおさえ、驚愕に眼を見開き、そしてその眼が見る間に潤んでくる。もちろん、カンナ達は何のことやら分からない。


 「旦那様、旦那様、美人先生が戻ってきました……!」

 そう叫び、店の奥へ行ってしまった。


 「な……なに?」

 カンナが、呆然としてつぶやく。

 「さあ……」


 スティッキィも、訳がわからぬ。パオン=ミが、しまったというふうで顔をゆがめた。


 「なにやら訳ありと観た」

 「あたし、なんにもしらないわよお」


 「いや……もしや、スティッキィをマレッティと間違えておるのではないか?」


 スティッキィとカンナが息をのむ。なるほど。

 「なあによおそれえ……ちゃんと調べたんじゃなかったのお?」

 「流石に、そこまではわからぬわ」


 出ようとしたが、もう店の主人が先程の女性を連れて飛んできて、三人を奥の特別席へ案内する。


 「美人先生、よくぞご無事で……あのあと、どちらに行かれてたんですか!? みんな、心配したんですよ……」


 やはり、スティッキィを見つめて、そう云う。


 自らの正体を明かすかどうかの瀬戸際で、パオン=ミとスティッキィが黙ったが、何も考えていないカンナがあっさりと答えた。


 「もしかして、マレッティと間違えてます? こちらは、マレッティの妹のスティッキィなんですよ」


 カンナ以外の四人が、何とも云えない驚きの顔となって、カンナを凝視した。

 「妹……さんですか!?」


 店の主人、ラズィンバーグ近郊周辺諸部族のひとつ、ユホ族のマイネルが、いまやホール係の筆頭女給となったかつての踊り子、同じくユホ族のタノーラと眼を合わせた。そして、再びまじまじとスティッキィを見やる。


 「……それにしても、よく似ていなさる」

 「双子なのでえ」


 スティッキィが片眉を上げて、マレッティそっくりの声を出した。もちろん、教養として習っていたサラティス語だ。ラズィンバーグは、かつては独自のラズィンバーグ語があったが、連合王国時代に廃れ、現在はサラティス語とストゥーリア語のごちゃまぜ語が通用しているが、どちらかというとサラティス語に近い。


 「双子……そうでしたか」

 マイネルも、納得してきたようだ。

 「で、では、美人先生はご無事なんですね? いまは、どちらに?」

 「スター……ストゥーリアにいますけどお」

 「ストゥーリアに……?」


 たしか、当時マレッティは、多くは語らなかったが訳あってストゥーリアより出てきたと聞いていたマイネル、怪訝そうな顔をしたが、また、訳あって戻っているのだろうと察してそれ以上は聞かなかった。


 「そう……ですか。いや、お元気ならば、それでよいのです。はい。どうも、お邪魔いたしました」


 立ち去ろうとするのを、しかし、パオン=ミが止める。


 「待て。次はこちらが聴く番ぞ。マレッティは、以前この街にいたことがあるのか?」


 「え、ええ……聞いてないのですか?」

 「聞いてないから聴いておる」

 「ちょっと、パオン=ミ……」


 あまりに不躾な云い方と声色なので、カンナがパオン=ミの袖を引いた。

 パオン=ミが少し咳払いし、


 「マレッティがそなたらとどういう関係があり、どういう経緯があったか、差支(さしつか)えなければ伺いたい」


 そして、目ざとく、ストゥーリアの銀粒貨を一つ、出した。ラズィンバーグはサラティスの通貨カスタが流通しているが、ストゥーリアのトリアンも使える。両替商がいるし、銀としても質が高いので喜ばれる。金貨一枚が一トリアンで、銀粒は一個が四分の一トリアンになり、カスタでいうと半カスタほどなので、ネタ代としては、まあまあだ。


 「これはどうも……」


 掏摸(スリ)めいた手早さでテーブル上の銀粒貨を取ってポケットへしまい、立っていたマイネルが席に着いた。すぐにタノーラが酒を持ってくる。サラティス産の赤ワインだった。


 「四年前ほど前ですがね……」


 マイネルの声が、がぜん低くなる。楽団がユホ族の伝統音楽を演奏し、踊り子の伝統舞踊を踊る足音とその手のタンバリンの音色で、よく聞こえないほどだ。

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