第2章 4-6 真の力
「ガキ……!」
バグルスがいったん離れ、クィーカへ飛びかかった。カンナの反応速度では到底ついてゆけない。
「クィーカ!!」
バグルスへ意識が飛ぶ。バグルスの動きへ意識とガリアが重なる。
瞬間、周囲を圧する爆音がした。
空気が揺れ、剣が鳴った。黒剣が連続して空気を引き裂く。クィーカは耳を抑え、たまらず草むらに臥せた。バグルスが驚いてカンナを凝視した。
「…………!!」
バグルスの威嚇の咆哮も聴こえない。カンナは驚きも恐怖もなく、これまでに無い昂りを感じたが、黒剣がそれを全て吸い取ってゆくような感覚に驚いた。竜を倒す想いは変わらないが、それが純粋な殺気となって眼前のバグルスへ突き刺さる。鼓動が高鳴るが、頭痛はしない。カンナの血流の奥から沸き上がる衝動は、さきほどのような動揺から、完全に攻撃の意志へ変換された。身体の芯まで響く轟鳴が心地よい。
「ふああああああ」
自然に声が腹から絞り出された。カンナの眼は相変わらず見開いて、バグルスを視線で刺した。そのどうにも放出できずに葛藤していた気持ちが、今は全て黒剣を通してバグルスへ向けられた。地鳴りめいて黒剣が震える。電流がほとばしる。
バグルスが眼を血走らせ、カンナへ突進した。ズガア! 空気が破裂する。バグルスは衝撃波で吹き飛ばされ、地面を石ころじみて転がった。雷撃が立ち木を襲い、一撃で裂いて倒す。木から火が上がった。
凄まじい力だった。稲妻ではなく、その轟音が。
バグルスを睨みつけながら、さらに音は大きくなる。ゴゴゴ……ズズズズ……!! 通奏の持続低音からますます音量と音圧が膨れ上がり、岩を砕いたような音がひっきりなしに続き、やがてズガッ、ドゥガッ、とけたたましい爆裂音がして、カンナの気合と共にまさに天地鳴動! その一帯が火山の噴火か大地震のごとき地鳴りと揺れに襲われる。森がざわめき、大小の生き物が一斉に逃げ、いつのまにやら低く垂れ込めた雲までが渦巻いて見えた。カンナから、プラズマ流が縦横無尽に溢れ出ていた。
これが全て、カンナの黒剣が鳴り響いて顕れた現象であった。
バグルスはもう何もできずに、ただ立ち尽くすだけだった。
と。
カンナは、轟音がふいに何も聴こえなくなって、視界が真っ暗になった。
「あれっ……!?」
そして、はたと気づくと、微かに震える両手に何も持っておらず、全ての鳴動も止んでいた。静寂にあわてて周囲を確認すると、自分の後ろでバグルスが背中を向けて立ちすくんでいる。突進をかけて、バグルスを追い越してしまったのか。そして、気づいたら己の右手にはちゃんと黒剣があった。
「……シィィィィィ!」
血液の吹き出る音と、呼吸の漏れる音が同時に響き、バグルスは脇の下から腰にかけて真っ二つとなって地面へ崩れた。
そして、倒れたまま、ややしばらく長い腕がバタバタと動いていたが、やがて動かなくなり、パタリ、と地面へ落ちた。
カンナは、呆然とその様子をみつめた。
「カンナ、カンナ……!」
クィーカが後ろからカンナへ抱きついた。クィーカは泣いていた。恐ろしかったのと、カンナがバグルスを倒したのが嬉しくて。
「ふごふごふご……ふごっふご……ふごごご」
「なに云ってるか分かんないよ」
カンナはクィーカの背中をやさしく撫でた。
「おおっ! こりゃまた、すげえな、おい」
アートが藪をかきわけて戻ってきた。服はボロボロで、顔や身体に擦り傷もあった。
「無事なの?」
「ご覧の通り」
「主戦竜は?」
「……あー、ま、その、なんというか……逃げられた」
そう云って、アートは無邪気に笑った。
「逃げられた!?」
カンナは驚いてアートを見すえた。
「だから、俺のガリアはトドメに向かないんだよ! あんたがいりゃ良かったんだけどな。……しかし、バグルスをぶっ倒すなんて、凄いな。まるでカルマじゃないか。初めて見たぜ、モクスルでバグルスをぶっ倒した人」
カンナは何も答えなかった。アートは、呆れながら改めて周囲を見渡した。大木は焼け焦げ、何本かは稲妻の直撃を受けて裂けて燃えている。まだ耳の奥がジンジンと鳴っていた。腹にも重低音が残っている感覚だった。
「おい、あんた、バグルスの首をとりなよ」




