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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第2章 4-2 夜襲

 再び、カンナは二人を先に歩かせ、こっそりと身分証を提示する。


 竜には、夜行性と昼行性があり、森を夜襲するか昼に攻め込むかを判断しなくてはならない。主戦竜と一口に云うが、四種類の竜が確認されている。それぞれ「大猪(おおいのしし)」「大鴉(おおがらす)」「大背鰭(おおせびれ)」「大王(だいおう)」と名づけられ、認識されている。


 大猪竜は陸戦型で四つ足、突進用の大角と牙を持つ竜で翼は無い。主戦竜といえば、大概がこの大地を駆ける大猪竜だった。首が長いもの、短いものがいて、角の大きさや数も異なり、牙も下顎から突き出ていたり、上顎から出ていたりと、何種類か亜種がいるのだが、一般的には区別せずまとめて大猪と呼ばれている。


 大鴉竜は漆黒の大きな翼を持ち、上空から凶影となって襲いくる飛竜で、前肢が翼になっているのが特徴のもの。これも角があったり無かったり、尾が長かったり尾の先へ鉤や刺がついていたりと、微妙に違いのある何種類かがいるのだが、研究者以外にはまとめて大鴉として分類されている。


 大背鰭竜は、巨大な三列の突起を背中に持っており、二足歩行で強力な機動力を発揮。これも翼は無い。頭や手の大きさ、背鰭の形、刺や角の数、毛の長さ、爪の数などで何種類かいるが、他と同様に大背鰭で統一されている。


 そして大王は、竜の中の竜に相応しい、ひときわ大きな身体と翼、手足を持ち、一頭で出城を一つ落とすという、いわゆる大王火竜(だいおうひりゅう)と呼ばれる真紅の化物だった。これは、この一種類しか確認されていない。


 このほかにも、海に大型の海生竜が現れたという噂もある。これが海の主戦竜と分類されれば、五種類目となる。


 ちなみに軽騎竜も、幾つかの種類が確認されているが、区別するほど重要ではないので、ひっくるめて分類されている。


 「ま、大猪だっつうからさ、あれなら、なんとかなると思うんだ」

 アートは気楽な調子だった。


 竜は、次から次へと現れて、確かにきりがなく、一頭あたりの被害も大きかったが、かといって倒しきれないほど溢れ出るということは無い。ここ二十年ほどはうまくバスク組織が機能して竜は出るたびに退治されているし、平原を行軍中に目標以外の竜にばったり遭遇、というのは、滅多になかった。あっても、移動している竜を遠目に見かけるというほどで、そのままサラティスかどこかの村へ向かってしまう。追いかけようにも、馬でも追いつけないし、馬はいまや貴重な交易用・農耕用の家畜であってバスク達が使うほど数はいなかった。基本、バスクはひたすら歩く。かつては狼や熊、大型の剣歯虎が旅人を襲っていたが、今は竜に食われたのか、獲物が竜に食い尽くされたのか、これもほとんどいない。平原は、小動物と些少の草食獣しかいない時代となった。


 三人は丸一日歩き続け、やがて目的地であるラッテロの森林地帯へさしかかった。夕刻が近い。森は広く、うっかり夜に入っても迷うのは必定だった。


 「ここで野営だ」

 背負っていた荷物を下ろし、アートが竈の用意を始めた。

 「火なんて焚いて大丈夫? 竜に見つからない?」


 「不思議と見つからないんだ、これが。湯を沸かして、コーヒーを淹れよう。晩飯は乾パンと燻製した魚、干しリンゴ。魚は鯉と鯰。鱒は高いからな」


 「コーヒーなんて持ってきたの!? 余裕ね……水は重かったでしょう」

 カンナは呆れた。


 「コーヒーを飲まないウガマール人がいるかよ。おいクィーカ、食料を出してくれ」


 ふごふごと鼻を鳴らし、クィーカが手際よく食事の支度をする。カンナは、野宿は慣れていたがこのような野営はしたことがなく、棒立ちだった。


 手早く夕食をすませ、火を消すとめいめいに横になった。ウガマールからサラティスへ到る旅路を思い出し、カンナはなぜか星空が懐かしかった。


 何刻も寝ていないだろう。

 「おきろ」


 カンナはすぐに起き、眼鏡を手さぐりで捜しあてた。クィーカも起きている。森は真っ暗闇だが、雲がなく、月明かりと星明りがあった。


 「夜戦準備だ」

 「竜なの? 大猪って夜目が効くの?」


 「効くけど、あまり夜にうろつかないはずなんだがな」


 アートが暗がりにギラリと月光を反射する手甲を装備した。白銀の無敵手甲(むてきてっこう)だ。カンナも、黒剣を出して下段に構える。緊張を反映してか、その雷紋が鈍く脈打っていた。電光もジ、ジジと低周音を発して光る。


 「目立つな、その光をひっこめろ」

 「えっ、でも……」


 やり方が分からない。勝手に光る。森の闇の中に気配。こっちが夜襲されようとは。


 やおら、アートが唸り声を上げて無敵手甲を発動させた。夜の闇に虹色の長方形が明滅し、目をくらませる。そこにいたのは、


 「また、バグルス!?」


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