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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
31/674

第2章 4-1 主戦竜

 4


 「なあ、主戦竜退治の依頼が来てるんだが、やるか?」


 あまりに自らのガリアと語り合えなかったため、自分へ幻滅しきった翌日、そろそろ仕事をとモクスルの本部へ行って帰って来たアートが、おもむろにカンナへそう云った。


 「えっ?」

 「聴いてたのか? 主戦竜の退治の依頼があったんだ」


 「主戦竜?」

 「いちばんでかいやつだ。見たこと無いか?」

 「ない」

 「そ、そうか……」


 アートはコーヒーを二人分、淹れた。クィーカは近所の主婦と買い物にでかけている。


 「でかいぞ。竜の本命と云っていい。百から、一番でかいのでは百五十キュルトはある。しょっちゅう出てくる軽騎竜と違って、たまにしか出ないが、村ごと滅ぼすような類はたいていこいつらだ。手強いが、動きが鈍いし、倒せない相手じゃない。コーヴならセチュを含めて三、四人で充分だし、モクスルでも一頭なら五、六人もいれば倒している。問題は、俺ら三人でやれるかどうか、だ」


 「いま、五、六人でやるって云ったばかりじゃない」


 「自分でいうのもなんだが、俺は、防御だけならバグルスにだって通用すると思ってる。防御だけなら、な……問題はあんただ、カンナ。俺は、この前の駆逐竜を退治したときの、あんたの攻撃力を期待してるんだが」


 カンナは顔を歪め、唸ったまま答えられなかった。

 「どうする?」

 「……お金の問題なの? 受けなきゃダメ?」


 「ちがう。『あんたの問題』だ。……ずっとガリアとにらめっこしてたようだが……ガリアの音は聴こえたのか? 答えを出さないと、竜は待ってくれないぞ。この先も、ガリア遣いとしてやって行くのなら、な」


 試されている。しかし、答えはまだ出ていない。やるのなら、これはぶっつけ本番というやつだ。


 「やる」


 カンナは即答した。いつまでも黒剣を眺めていたところで、おそらく何も進まない。そういう気がした。やるのなら、戦いの中でしか答えは見つからない。きっとそうだと思った。


 「よし。やろう」


 モクスルの事務所でもらってきた地図を卓上に広げ、アートは説明を始めた。サラティスの周囲はずっと荒野が広がっており、サラティス平原と呼ばれている。南西の彼方、徒歩で一か月も行った辺りに大きな河川があり、ホールン川という。その川まで、古来よりサラティスの領する地域とされていた。川の向こうには、かつては都市国家が幾つかあったとされているが、竜に滅ぼされて久しく、この百年ほどは誰も川を渡った者は無いとされている。


 平原には森や小山、岩山に丘が点在しており、竜はよくそこを渡って来る。街の周囲の幾つかの森には定期的にセチュによる斥候が入って、竜を発見しては事前に出向いて退治をする。または、見つけられなかった竜は、現れてから退治する。この繰り返しだ。つまり、竜が出現してから現在まで、人間側は常に防御と対処の体勢だった。


 「主戦竜がよく隠れているのはここだ。地図を見てのとおり、ここは比較的でかい森で、主戦竜も隠れることができる。前、軽騎竜を退治したのがここで、その前に例の駆逐竜をやったのが、ここ。……比べるとちょっと遠いが、援助を頼めるセチュはいないんだ。どういうわけか、応募に誰も応じない」


 「ホントに主戦竜が一頭だけなの?」


 「斥候の話ではそうだがな……セチュの見立てだからな。確約はできない。軽騎竜が何頭かいるかも」


 「やるしかないんでしょ?」

 「そういうことだ」


 カンナの脳裏に、眼前で一瞬にして食われたヤーガが浮かんだ。たとえカルマといえども、油断していたら同じ運命となる。竜を退治するというのは、そういうことだった。現に、カルマでもカンナが来る前に一人、死んだばかりだったはずだ。


 「やるしかない……やるしか」

 自分を追い詰め、ガリアの奥義を得る。リスクは高い。

 翌日、野営の準備を整え、三人は出発した。


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