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ガリウスの救世者  作者: たぷから
短編「仇討」
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仇討 2-4 二剣遣いと四人の楯遣い

 しかし、バーチィにも意地があった。ガイアゲン商会から、資金を借り入れようとしていた。正確には、借り換えだった。グラントローメラからの半ば強制的に押し付けられた巨額の融資を、秘密裏にすっかりガイアゲンへ移してしまう準備をしていた。それがうまくいけば、グラントローメラからの借金をガイアゲンが肩代わりして払ってくれ、より安い金利でガイアゲンが保護してくれるかっこうとなる。まさに大逆転だ!


 しかしその貸付金は、グラントローメラにしてみればシュタークに対する「切り札」であったため、それをされる前に、バーケンは強硬手段に出た。取り急ぎ、バーチィ本人を消してしまおうというのだ。その後は、残った夫人と番頭など、どうとでもなる。


 オーレアの出番だった。


 「覆面」ではとうぜん、下調べをし、バーチィがどこからかガリア遣いを護衛として雇いだしているのを知った。これはガイアゲンに相談した時に、ガイアゲンの若き女性筆頭番頭、レブラッシュが推薦してくれた強力なガリア遣いで、暗殺者組織「メスト」の一員だった。オーレアとはメスト仲間ということになるが、メスト内に派閥があるのは既に記してある。オーレアが所属する「覆面」とは別の、首領がいつも全身甲冑を着ているので「甲冑」とそこの構成員から呼ばれている組織の四人組暗殺者だった。メスト内での、派閥同士の暗殺の戦いは、よくあることだった。あくまで、組織の潰しあいに発展しない程度で……であったが。


 次に、バーチィが外へ出る日を、オーレアは執拗に待った。

 暗殺者の仕事の大半以上は、機を「待つ」ことだった。暗殺など、一瞬だ。


 シュタークにとって不幸だったのは、商会の斜め前に、安アパートがあったことで、かつ、二階のちょうどよい部屋が空いていたことだった。オーレアはさっそく部屋を借り、小荷物を持ちこんで、組織に頼んで下人も使い、徹底的に張った。その間、もちろん、出入りや内部の人間を買収して、内情も探る。


 なんと、ほぼ一か月後に、バーチィが外出をすることをつきとめた。

 月がかわって、ラヴィンキィ帝月となった。


 残暑があるが、夕刻はにわかに涼しくなってきた。日も短くなり、北国のスターラでは、もう秋の気配がする。


 バーチィは、密かにガイアゲンより呼び出しを受けた。融資の案件が固まったのだ。


 小躍りして、バーチィは生き返ったような顔となった。これで、グラントローメラとは完全に手切れだ!


 護衛ガリア遣いたちの提案で、人気のない夜半にガイアゲンヘ行くことになった。

 だがその情報は、買収に成功した内部の人間により、オーレアへ筒抜けだった。


 商会の内部でも、既にシュタークを見限って、グラントローメラへ味方する人間が多かったのである。


 先頭を行く付き添いの一人のみがランタンを持ち、四人の女がフードを深くかぶり、同じくフード付マント姿のバーチィを中心にして裏口より出る。既に裏口付近の物陰に潜んでいたオーレアが、音もなく後をつけた。もし予定を変更して正面から出ても、見張りから連絡がすぐ来る手はずだし、シュターク商会には、大手商会には必ずある避難用の隠し通路も特に無いことすら掌握していた。バーチィは、正面か裏口から出るしかない。


 ガイアゲン本部建物までどの路を行くかも何種類か想定して、下見も済ませていた。襲撃しやすいのは、少し遠回りして、狭い十字路を通るところだ。残念ながらそこは通らず、表通りを進み、ガイアゲン商会へ向けて途中から裏路地に入る道を進むようだった。


 そこまで予測し、オーレアは近道を進んで先回りした。


 ちょっと走って、ちょうど裏路地を巡礼の一団のように粛々とやってくる一行の、真正面に出る。


 暗がりに、オーレアのガリアが光った。


 ガリア「天破銀流金留剣(てんぱぎんりゅうきんりゅうけん)」は、白銀の長剣と黄金の短剣から成る、珍しい一対で一つのガリアだった。オーレアはアーレグ流二剣術の師範級であり、それが関係しているのだろう。しかも、通常、二剣流は利き手に長剣を、反対側の手に短剣を持つのが主流であり、たいていは右手に長剣、左手に短剣を持つ。もしその反対の右手に短剣、左手に長剣の「逆二剣」の者がいたら、それは左利きであるのが理由だった。


 しかし、最も珍しいのは、オーレアは右利きなのにあえて逆二剣なのである。


 そのため、左手をひたすら鍛錬し、強制的に両利きにしたといってよいほど、左手は自由に動く。それこそがオーレアの強さの秘密の一つで、敵は思わぬ二剣の攻撃に曝される!


 オーレアをガリア遣いの襲撃者とすぐに看破した護衛の四人は、もう、それぞれのガリアである楯を出し、陣形を組んだ。こちらも珍しいガリア……いや、「ガリア群」で、本来は何の関係もない赤の他人がそれぞれ別の銘を持つ楯のガリア遣いとして活動していたが、楯遣いというのがそもそも少ないため、たまたま会う機会のあったときに意気投合した。すると、よほどウマが合ったものか、その四人のガリアが四つで一つの強大な効果を発揮した、稀有の例だった。その特性を活かし、いまは暗殺というより、このように護衛の仕事が主になっている。


 楯はそれぞれ模様も形も大きさもバラバラで、なんの関連性もなかった。ただ、現在はこの四人で、ガリア「四方防牙楯陣(よもぼうがじゅんじん)」を形成している。



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