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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第1章 1-3 アーリー

 カンナは恐ろしさで息が止まって、ただ小刻みに震えて女性を見上げるだけだった。


 「私はアーリーだ。可能性は92。もう二十七年も、ここでバスクをしている。……フフ、可能性は92だが、いつまでも世界を救う兆候は無い」


 その自虐の笑いも、まったく表情を変えない。髪の色とその真紅の鱗鎧から察するに、アーリーは赤竜との半竜人(ダール)か、その子だろう。竜との混血人というのは、話には聴いていたが、本当に存在するとは思わなかった。見た目は人間の二十代中ほどだが、いま彼女が云ったとおり、その倍か三倍の年月を既に生きているはずである。


 アーリーはカンナが声を出すまで、辛抱強く仁王立ちのまま、待った。やがてカンナが息を取り戻し、ずり落ちたメガネを戻して胸に手を当て、何度も礼をしてなんとか口をきいた。


 「あっ、あの、今日から、おせっ、お世話になります、カンナです。カンナ……カンナといいます。あのっ、あの、その……ですね、かっ、可能性……可能性は……その……」


 自分でも信じられなく、恥ずかしくて、とてもではないが云いだせない。冷や汗が吹き出て、眼鏡がまた鼻へ下がってくる。


 「99。99なのだろう? 鑑定所から伝書が届いている。サラティスで、可能性90以上は私とカンナ……君だけだ。また、90以上が二人揃うのは、十三年ぶりだ」


 「そう……ですか」

 「黒猫は何も云わなかったか?」

 「ネコ……ですか?」

 「一階にいる事務の女だ。本名は誰も知らない。私ですら」

 「……黒……猫……?」


 カンナは不思議な気分になった。あの幻影のような事務の女性は黒猫というのか。その気分に支配され、感覚がしびれた。


 そのしびれを振り払ったのは、凛としたアーリーの次の言葉だった。


 「仲間を紹介しよう。我々は隊列を組んで竜と戦うときもあるからな。いつも皆が勝手気ままに竜退治をしているわけではない。カンナが入所したことで、再びサラティスのカルマは五人となった」


 右手を上げると、窓からの逆光に、二人の影が浮かんだ。それはすぐに人物となってカンナの目の前に現れる。


 二人ともカンナよりやや背の大きい、同じような背丈、体格だったが、印象は対照的だった。長い透き通った金髪に大きな蒼い眼と愛らしげな顔だちの白いフリルだらけの服の女性と、濃いくしゃくしゃの焦げ茶の髪を肩でそろえ、日焼けしたこちらも眼の丸い精悍な顔だちに笑顔と白い歯がまぶしい、身体をしめつけるような革の服をまとった女性だ。金髪は金満な良家の子女というふうだが、茶髪の方はいかにも怪力なアーリーとはまた異なる、敏捷性に富んだ筋肉が躍動しているのがよく分かった。


 「二人とも、新しい仲間のカンナだ。歳は十四。可能性は……」

 「きいてるわよお! 99なんですってえ!? すっごおいじゃなあい!」


 金髪の方が転がるような高い声を出してカンナに近寄り、その手をとった。カンナは気押されして声も無い。


 「二人とも自己紹介しろ」


 「あたしはマレッティよお。歳は十九。カンナちゃんよりおねえさんなんだからあ! 可能性は86でえす」


 「オレは、フレイラってもんだ。歳は二十二だ。可能性は84。マレッティとは同期で……三年前? もう四年前か? それくらいからここで世話になってる」


 「ど……どうも……よろしくでした……」


 二人の存在感に圧倒され、そう云ったつもりだったが声が出ていたかどうか。

 「モールニヤはどうした? また一人で退治にでかけているのか?」


 カルマの構成員は、いまさっき、アーリーがたしかカンナで五人めと云っていた。もう一人、いるようだった。


 「ここんとこ、見てないっす。というか、ずっと見てないっす」

 「あたしもお。モルニャンちゃんは郊外や他の都市国家に出張が多いからあ」


 そして、マレッティがカンナへ向かって片目をつむる。

 「あたし、モルニャンって呼んでるの。かわいいでしょ?」


 「へ……」

 なんと答えて良いのか分からない。


 「仕方がない。その内、紹介できるだろう。この四人と、モールニヤを含めた五人がサラティス・カルマの構成員だ。実は、一か月と少しほど前まで、オーレアという仲間がいたのだが、竜との戦いで死んだ。可能性は87だった。知ってのとおり、可能性は強さではない。いくら可能性が高くとも弱ければ死ぬし、可能性が少なくとも、強く、稼いでいるものもいる」


 カンナはその言葉に心臓がつぶれそうになった。


 「だが、我等カルマは可能性80以上である自覚を常に持ち、いつか世界を竜の侵食から解放しなくてはならないことを肝に命じておけ」


 「は……」

 また声が出ない。カンナは、我ながら情けなかった。


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