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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第2章 3-4 斥候バスク

 マラカが真面目な顔になり、さらに声を低くする。伸びをして、くつろいでいるようで、自然にカンナにだけ聴こえる距離を保ち、素早く話し始めた。


 「拙者、モクスルに所属はしていますが、都市政府お抱えの情報収集専門の斥候バスクです。斥候は本来セチュの仕事ですが、敵陣の奥深くへ忍び込むには危険が伴います。拙者のようなバスクも必要なのです。カンナどののことも、カルマに登録された瞬間から、全て知っています。なぜなら、そう依頼されたからです。カンナどの、うすうす聴いているとは思いますが、いま、竜属の遠征軍が、サラティスへ本格的な侵攻をかける前段に来ています。敵はバスクの数を減らすため、長い時間をかけて、サラティスはもちろん周辺の農村や、交易街道へ竜を大量に送り込み、バスクの戦力をまんまと分散させました。いま、サラティスの防備は完全に手薄状態。その指揮をとっているのが、竜属に与するダールであり、サラティス侵攻軍総司令官のデリナです。もちろん、強力なガリア遣いです。カルマ級のね」


 カンナは口をぽかんと開け、眼を瞬かせた。勿体ぶらずに話せとは云ったが、話が直球すぎてついてゆけない。思わずマラカの顔を見ると、口づけするかのごとき近さで、マラカもカンナへ鼻を寄せた。


 「な、な……」

 「カンナどのの疑問は全て、わ、か、り、ますよ……分かりますとも」


 再び、楽しそうに含み笑い、カンナの腕と腰へ手を回した。

 「ちょ、ちょちょ、やめてください……気持ち悪い」


 「み、ん、な、見てますから、イチャイチャするふりをして……」

 「うそだ」


 しかし、何人かのバスクは間違いなく聞き耳を立てていた。いつのまにか、浴場には数人しかいない。


 カンナは咳払いをし、仕方なくマラカへ寄り添う。マラカがカンナの耳へ口を近づけ、囁いた。くすぐったいのと、気味が悪いのとでカンナは困った。


 「カンナどのに頼みがあるのです。拙者の頼みではありませんよ。拙者の依頼主の頼みです。都市政府もからんでいます。なにせ、まんまとサラティスの戦力を半減させる相手……ただ竜を率いているだけではなく、戦略的に攻めて来ています。竜の味方をするダールのデリナに対抗するためには、こちらも遅ればせながら、対策を練らなくてはいけません。サラティス大侵攻の日は、もうすぐそこに迫っています」


 「は、はあ……」

 蛇のように絡んでくるマラカの腕を払いながら、カンナは身をよじった。


 「で、ここからが本題ですが……カンナどのは、カルマに戻ってください。そして、カルマの裏切り者を探す」


 「はあ!?」

 「サラティス侵攻軍総司令官デリナと通じている人物が、カルマにいます」


 カンナは失笑し、首を振った。ばかばかしすぎて話にならない。

 「うそばっかり。そんな人、いるわけない」


 「信じませんか?」

 「信じられるわけないでしょ」


 「拙者の情報を信じない? 都市政府御用達ですよ?」

 「だから、なんですか?」


 「では……これはどうです? カンナどの。……カンナどのは、ウガマールの奥院宮(おくいんのみや)から派遣されて、来、ま、し、た、よね?」


 楽しげにマラカが小声を出す。カンナは眼と鼻の穴と口をまん丸に開き、 


 「なんで知っ!!」

 すかさずカンナの口へ手を当てる。

 「お、し、ず、か、に……みんな見てますよ」


 カンナはわなわなと湯の中で震えだした。

 「な……なんで……」


 「拙者は情報収集専門の斥候バスクだと云ったでしょ。情報こそ我が命。拙者は、直接には竜を滅多に倒しませんが、竜の情報を仕入れて間接的に倒すんです。そういうバスクもいるのです。さて……ウガマール奥院宮のことまで知っている拙者の言を信じませんか? カンナどのの本名もここで云いましょうか?」


 カンナが息をのむ。そんなばかな。まさか。

 「……カ、ン、ナ……」


 マラカが眼をほそめた。

 「カー……」


 ム、を声に出さず、口の形だけ作る。その口づけのような口でカンナへすうっと近づいたので、カンナはあわてて押さえた。


 「分かった、分かりました。わっかりました」


 カンナは恐れ入った。こんなバスクもいるのか。マラカが声を出さずに笑った。


 「信じていただき、感謝です、カンナどの」

 「でも……いまからカルマにどうやって……」

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