第2章 3-1 悩み
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都市政府による駆逐竜の退治報酬は、一頭十カスタだった。三頭倒したので、三十カスタを手にした。アートとクィーカのふだんの退治の十倍以上で、申し分の無い額ではあったが、
「思ってたより少ないな。あんなに手強いのにこれだけかよ」
夕食後、クィーカを寝かしつけ、グラッパをちびちびやりながら、アートは不満げだった。カンナはぼんやりと蝋燭の火をみつめていた。
「なあ、あんたはどう思う?」
「えっ? ……いや、特に、なにも……」
「欲が無いな。ま、金を出すのは都市政府だ。都市政府が税を集めるのは俺たちじゃない。農民や商人、それにバスク以外の都市の住民……。彼らを襲わない……バスクしか襲わない竜に出す金は確かに無いだろうよ。駆逐竜はバスクで勝手に退治しろってか……」
真鍮の小さなカップを一気にあおる。
「納得いかないが、しょうがない」
「寝る……」
「ゆっくり休めよ」
奥の納戸が空いているので、そこを片づけてカンナの部屋にする予定だった。今日は、クィーカの部屋の隅に毛布を敷いて横になる。クィーカは深く寝息をたてていた。メガネを外し、窓際へ置く。横になってぼんやりとした夜空をその窓から見ていたが、やがてカンナも眠りについた。
同じ夜、半月が高く登ったころ、アーリーはいつもの通り、塔の最上階で瞑想していた。開け放たれた窓より、音もなく何かが侵入する。それは一匹の森ミミズクで、羽音をたてずに正確にアーリーへ近づいた。アーリーが右手の指を出すと、それへ止まる。瞑想をやめたアーリーが、大きな手で器用にその脚についている小さな金属環を開けた。中に、さらに小さな巻物が入っていた。それを取り出し、広げると、細かな字が並んでいた。
一読し、アーリーはかすかに笑うと、森ミミズクを窓より放った。そのまま窓の縁へ手をかけ、雲の流れる夜空を見続けた。
下弦の半月が、薄い雲に霞んでいる。
それから、しばらくアートとカンナ、それにクィーカは他のバスクの退治を手伝い、また二度ほど軽騎竜を退治した。カンナが黒剣でトドメをさせるので、アートは独立して竜を退治できた。その日、前日に退治をしたため、休みだった。
「にわかに金持ちになっちまったなあ」
アートがにやにやして、カスタ金貨を数える。駆逐竜三頭と、二頭の軽騎竜の退治が大きい。九十八カスタを一気に稼いだ。
「こんなもの、他のバスクじゃ、ふつうの稼ぎです、ふごっ」
そういうクィーカも、笑いが止まらない。
「ふごふご、今日はお肉でも食べましょう、アート様! 竜のクズ肉じゃなく、豚肉か鶏肉を買ってきて! 鹿か兎でもいいです」
「そうだな。カンナは、何か食べたいものがあるか?」
カンナは窓際に座り、ぼんやりと外を眺めていた。退治のときは張り切るが、帰ってからはいつもこうだ。いつのまにか気温は上がり、すっかり夏になった。城壁に囲まれているとはいえ、この街角の家は風通しが良い。サランの森からの薫風が心地よかった。
「何を悩んでるんだ? ちゃんとうまく退治をやってるじゃないか」
アートがコーヒーを淹れ、カンナへ渡した。
「やってるけど……でも」
駆逐竜退治より、少しは雷撃が出るようになっていたが、また共鳴からは遠ざかっていた。黒剣は変わらず竜をたやすく斬り裂くが、雷撃の力がなくては、剣の腕前など素人以下のカンナでは、宝の持ち腐れだった。なんとかして、あの強烈な稲妻の力を安定して出せるようにならなくては、カルマへ戻れない。
(あれっ、わたし、カルマへ戻りたがってるんだろうか……)
そう思うと、せっかく拾ってくれたアートやクィーカへ申し訳なく感じ、さらに気分が落ちこむ。
「竜退治って、地道なのね」
「なんだよ、急に……。もっと派手だと思ってたか? バグルスを退治するカルマは英雄扱いもされるだろうが、軽騎竜じゃなあ。市民も退治してもらって当然と思ってる。けど、いちばんよく出てくるのはその軽騎竜だよ。あいつらが最も村人やら商人やらを食い殺してるんだ。しかも、次から次と飛んでくる。どこから来るのか知らないがね。地道に倒していかないと、そのうち竜だらけになるだろ?」
「バグルスは、なんのためにいるの?」
「えっ?」




