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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第3章 4-4 スーリー

 また、いかにも楽し気に(わら)う。豪快な笑い声は爽快だが、状況が状況だ。神経を疑う。それに、大口で笑って何か吸いこんだらしく、次は激しく咳きこみ出した。カンナが心配したが、それを手で制し、涙目で、


 「……アーリー様に頼まれて、ここまで来たはよいがな……存じおろうかもしれぬが、ほれ、例の北方のダールどもがこちらに総構えで陣を張っておってのう。見つかって追いかけまわされ……あの片腕のバグルスめが、意外に手練れ……洞穴へ逃げこんだはよいが……迷ってしまったのよ」


 「まよ……」

 カンナは大きくため息をついた。状況は同じというわけか。一気に緊張が解ける。


 「あなたも、出口が分からないんですか?」

 「わからぬでもない。占っておったからのう」

 「うらない?」


 パオン=ミが笑顔で地面を指さした。光る黒剣をかざすと、ガリアの呪符が何枚も並べられている。先ほどは、座ってこれをやっているときに、彷徨(さまよ)っていたカンナがぶつかったのだ。


 「ガリアの占いゆえ、けっこう当たる」

 予知能力のガリアか。いや……やはり、ガリアそのものが、少し違う概念なのだろう。


 「それで、出口は……?」

 「出口もさることながら、我はスーリーを探しておるのよ」

 「スーリー?」

 「我が竜じゃ」


 あっさりと云い放つ。カンナは絶句した。竜を飼っているとでもいうのか。


 「我らの国では、竜は乗り物……つまり家畜よ。竜の国じゃからのう。我は竜騎兵じゃ。竜を操り、竜へ乗って移動し、戦う。こちらの言葉で、ガルドゥーンという」


 「ガル……」

 初めて聞く話だった。にわかについてゆけない。竜に乗る? どうやって?


 カンナの顔がよほど固まっていたのか、パオン=ミはうなずきながら微笑んで、またカンナの肩を優しくたたいた。


 「そう、驚くでないわ。国が違えば習慣も変わる……まして、いまだ竜皇神のおわす国と、竜皇神を滅ぼした国……根本から異なろう」


 「はあ……」


 そんなことより、その妙な芝居がかったサラティス語はなんなのか。カンナも、ウガマールより出てからサラティス語にスターラ語と、脳みそがついて行けてないところにこれでは、混乱するばかりだ。


 「そのしゃべり方、誰に習ったの? アーリー?」

 「アーリー様より賜った、古いサラティスの本を読んだのよ」

 「本……」

 「おかしいかの?」

 「いや……まあ……」


 カンナは、音読や読書は嫌いだった。ウガマールの奥院宮(おくいんのみや)で、ウガマール古代秘神官文字を大量に暗記させられ、山のような呪文書や教典を読まされたのがトラウマだった。本をどう読んだらそうなるのか、いまいち想像ができない。


 「さ、それよりスーリーよ。糧食も水も、鞍へ括りつけてある。見つけ出さねば、飢え死にの命運じゃで」


 パオン=ミは再び地面へ安座で座り、ガリアの呪符を地面へ並べ始めた。何をやっているのか、カンナにはまったく理解できなかったが、占い自体は終盤に来ていたようで、何度か呪符を切り、回収し、さらに並べて、最後は三枚を勢いよく切って、


 「よし、わかったあ!」

 と大声を出したので、カンナは身を震わせた。


 「わかったんですか?」

 「たぶんな」


 あっさりと云って、立ちあがるや再び呪符を周囲へばらまける。ぶわっと燃える音がして、七つか八つほどの白い人魂が浮かんだ。そして、先ほど最後に切った三枚の呪符を放つと、オレンジの人魂となって宙へ浮かぶ。


 「……?」


 カンナはいよいよ不審を顔に出してその三つの人魂を凝視していると、ふわふわと三つの炎が動き出した。


 パオン=ミが、無言で付き従う。カンナも、それへ続いた。

 どれほど、この静寂の空間を歩いたか。


 カンナは時間の感覚が狂っていたが、実際には、半刻、すなわち一時間も歩いていない。全体には、それほど広い洞穴ではないようだ。だが、細かな枝分かれがあり、中で幾重につながってもいて、迷うと厄介な場所だった。


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