第2章 2-6 共鳴
ヴヴ、ヴ、ヴ……と剣が鳴りだした。振動……いや、共鳴している。
「来た……」
カンナは異様に冷静だった。自分でも驚くほどだ。
「神官長様……来ました」
とたん、黒剣からスパークがほとばしる。振り返ったアートはぎょっとした。静電気のせいか、カンナの黒鉄色の髪が逆立っている。ジリジリと黒剣から電気があふれている。
「アート、右から殺るわ……解除して」
「お、おう!」
やや戸惑いつつ、アートが向かって右の障壁をゆるめた。とたん、反動で竜がつっこんでくる。瞬間、ドーン! と空気が震え、駆逐竜は硬直して動きを止めた。カンナは歯を食いしばり、竜の首めがけて剣を振り下ろす。ガリアの刃が竜の鱗をバターのように切った。
ごろん、と竜の精悍な首が転がり、残る一頭にはカンナ自ら仕掛けた。障壁へよじ登るように爪を立てていた竜の胸元めがけ、障壁の裏側から体当たり気味に黒剣を突き刺した。そして、雷撃。竜はただの一撃で感電し、その心臓を止めた。
「……クハアッ……」
カンナは地面へ座り込んだ。肩で息をする。駆逐竜は全て倒した。アートも大きく息をつき、ガリアを解除する。大きく上下するカンナの肩へ手をやり、立たせた。カンナは全身に汗をかき、その白い肌がよけいに青白く冷えきっていた。
「クィーカ、カンナを……休ませてやってくれ」
「ふごっ……」
クィーカはカンナを連れ、日陰に座らせると水筒から水を飲ませた。
結局、ヤームイはガリアを最後まで出さなかった。
しばらく休み、アートがガリアの力で穴を掘り、目も当てられぬ姿となったヤーガを森へ埋めてやると、四人はサラティスへ戻った。駆逐竜を倒した証拠に、身体の一部を持って帰る。鱗や、その大きな角……特に角は、駆逐竜がガリアを感じる器官だと思われるので、研究用にアートがこれもガリアの力を利用してへし折った。二頭、折って、カンナが落とした首はそのまま袋へ入れて持ち帰る。都市政府の研究組織へ提供する。
「ふん……こいつは、とんでもない竜が出てきたもんだ。こうなると、カルマのアーリーの云っている事も、にわかに信憑性を帯びてくるな」
アートの呟きに、誰も答えない。四人は無言のまま、日暮れ前にサラティスへ帰還した。
正門を抜け、ようやくヤームイは口をきいた。引きつった笑顔で、三人と握手をした。
「……報酬は、私の代わりに全て受け取って……駆逐竜がいくらかは知らないけど」
「そいつはだめだ、ヤームイさんよ。あくまで、俺たちはあんたの補助なのだから。バスクは、立場をわきまえるもんだ」
「いいの。私は何もしてないし……」
ヤームイは、そしてぽろぽろと涙をこぼし、無理に笑みを作った。
「私、バスクを辞める」
「なんだって?」
アートが聞き返し、カンナも驚いた。
「だって、私たちは、二人で可能性74だったんだもの。一人じゃ37。セチュだわ」
「しかし……」
「それに……もうだめ。心が折れちゃった……ガリアが出ないの。出なくなっちゃった……森の手前で遣ったのが最後……これじゃあ、竜は倒せない」
そんなことがあるのか。だが、そう云われたら、何も云い返すことは無かった。
「じゃあ……みんな、死なないで。竜を倒して。倒し続けて。この世から、すべての竜を! ……さいごに、いっしょに戦えて良かった。ありがとう」
アートもカンナも、無言でヤームイを見送った。




