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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第3章 1-4 凍りつく星々の音

 「あれはみなさん、ご存じのとおり毛長飛竜ですけども、別に珍しくはないですのよ? パウゲンでも目撃例がありますので、ここらへんを飛行していも。生息範囲は、北はトロンバー以北から、冬に関して云えば、南はパウゲンの向こう側にまでありますので。それよりむしろ、みなさんあれをご覧なさい、吹雪飛竜がこんな南部を飛んでいることのほうが、注目にあたいすることだと思います。なぜなら……」


 いちはやくそれを発見したメランカーナへ敬意を払いつつ、もう、みな聞いていない。メランカーナはまだまだぺらぺらとしゃべっていたが、残る四人の視線は、毛長飛竜に混じって低く森林上空を飛ぶ、巨大な舵角と翼を持つ、尾の短い吹雪飛竜に集まった。


 立木の陰へ身を隠しつつ、慎重にその動きを追う。大きな目玉で、ちらっ、ちらっと地上を確認しているのが分かる。


 「偵察よ」


 ベッカが既に、ガリア「銀麗流帯剣(ぎんれいりゅうたいけん)」を手にしている。しかし、上空には届かない。


 「どうするの? 隊長さん」

 急に云われ、カンナは言葉に詰まった。すぐにスティッキィが助け舟を出してくれた。


 「あたしたちのガリアじゃ、いま攻撃しても、無駄よお。みんな、届かないでしょお? 向こうだって、森の中に降りてはこないしい。無視して進みましょう。それより、もしかしたら連中、アーリーの危惧通り、竜を分けてるかもお……」


 それは、南よりスターラを攻める可能性があるということだ。

 本当は、分けているどころか、全軍がこちらに集結しているのだが……。


 飛竜たちは一刻ほどしつこく旋回を繰り返していたが、やがて風向きが変わり、行ってしまった。


 「あたしたちも、行きましょう」


 一行が慎重に森の中を進みはじめる。右斜め前方にトローメラ山が近くなってくると、標高が高くなりだすので、雪質も変わりだす。その日は、そこで日が暮れたので雪濠(せつごう)を三つほど作って、その中でめいめい休む。カンナとスティッキィ、メランカーナとクシュフォーネ、そしてベッカが一人だ。だが食事は糧食をみなで()る。そして作戦会議だ。


 「あたし、思うんですけれども、もし竜たちがアーリーさんのいうとおり、軍団を分けているとして、敵の大将のホルポスというのは、どっちにいるんでしょう? トロンバー攻めが主力だとしたら、おそらく向こうなんでしょうけど、ほら、アーリーさんがいうには、ホルポスというのは子供なんですって? だとしたら、カンナさんが戦ったという強力なバグルスに主力を率いさせて、ホルポスは、もしかしたらこっちにいるのではないでしょうか?」


 メランカーナは間違いなくおしゃべりだが、云っている内容に間違いもないので、耳は傾けざるを得ない。ベッカとクシュフォーネは完全に無口なので、必然、相手はカンナとスティッキィがする。


 「こっちにいたとしてえ、どこまでやりあうつもりい? カンナちゃん」


 どこまでと云われても、困ってしまう。できればやりあいたくない。そもそも、あのバグルスや、もしホルポスが出てきたとしても、まともにやりあえるのはカンナとスティッキィのみだ。


 まして、ほかに主戦竜が十もいたならば、この人数、そしてこの雪深い樹海では、とてもではないが、まともに戦うのは無理だろう。


 「こっちにいたら、逃げましょう」

 カンナが迷うことなく云ったので、メストたちは素直に感心した。


 「もともと、偵察だし……そういえばスティッキィ、マレッティとガリアで連絡がつくって聞いたけど、ほんとなの?」


 「いや、それがね……」

 スティッキィ、白湯(さゆ)を飲みつつ、眉を寄せて首をかしげる。


 「離れすぎてるのか、マレッティが忙しいのか……いまいち、応答がないのよお」


 それでは、わざわざスティッキィがこちらに来た意味がない。それはスティッキィも分かっているようで、申し訳なさそうに肩をすくめる。


 じっさい、そのころには、トロンバーはホルポスの幻像攻撃にさらされて、マレッティも遠隔通信どころではなく、てんやわんやであった。


 「元より偵察ですから、無理せず逃げるというのは、理に適ってると思います。飛竜があれだけいるんですから、ほかの竜たちも少なからずいるでしょう? あまり深入りせず、明日からは慎重に進みましょう。逃げる算段というのも、いまからつけておくのも手ですが……」


 「算段も何もない。竜どもの数にもよるけど、バグルスが出た場合は、とにかく逃げるしかないわ」


 メランカーナへ黒髪の合間から冷たい眼をのぞかせて、ベッカがぶっきらぼうに云うと、雪濠に入ってしまった。クシュフォーネも、それに続く。


 「ま、そおゆうことよねえ」


 スティッキィとカンナも、休むことにした。メランカーナは一人残って、しばらく夜空をみあげていた。


 静寂のあまり、星の音がこぼれ落ちてきそうだった。


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