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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第2章 5-3 追い詰められる第3大隊

 本陣へ戻り、クラリアは散兵した陣を狭め、避難所を取り囲むように配置し直した。しかし、暗殺竜の数によっては、一般人の犠牲は免れまい。


 (さんざんっぱら暗殺で金を稼いできたあたいが、竜に暗殺されかけるたあね……)


 クラリア、不気味な無表情に影を落とし、周囲を恐れさせていたが、心の中で自嘲の笑いが止まらない。


 すぐに、暗くなってくる。そんなころ、第一大隊・第二大隊とも総崩れでトロンバーへ逃げ戻ったという報が入ってきた。


 「だ……大隊長殿……我々も……」


 撤退し合流したほうが良いのではないかと云いかけた中隊長の一人が、ふらりと立ったクラリアが肩をポンと叩くようにして、その透明の剣を首筋につけていたので、一寸も動けずに固まった。


 何のために第三大隊はこんなところに布陣を命じられているのか。避難民とトロンバーの背後を護るためだった。合流する意味などない。


 「すみませ……」

 クラリアが再び、ストーブの横へ座る。


 雪を解かし、みなで湯を飲んだ。暖かい湯気が、気を晴らしてくれる。窓の外は、既に日が落ちかけていた。


 本来の時刻としては未だ夕刻前だが、すっかり暗くなると、雪が降りだして、最悪的なことに風が強まり吹雪となった。轟々と木々を揺らし、雪を巻き上げ、さらに空からも吹きつける。暴風雪だった。


 そんな環境でフルト達は寒さに耐え、炎のガリアを使うものはその火で皆を温め、雪濠で明かり片手に警戒していたが、夜陰と吹雪に紛れ、容赦なく竜が襲いかかる。小隊単位で散会させていたのが裏目に出た。悪天候による風の音で小規模な戦闘に誰も気づかず、戦いの様子もまるで見えない。位置的には、そう遠く離れているわけではないのだが、孤立した小隊が次々に撃破されてゆく。


 クラリアはもちろん、それを予想し、天候が悪化してきた時点で小隊ごとの連絡を密にさせた。

 だが、連絡係が遭難するほどの猛吹雪になってしまっては、どうすることもできなかった。


 それ見たことかという空気が、司令本部の木屋に充満する。トロンバーへ避難していれば、被害は少なかったかもしれない。


 しかし、その場合に残された避難民の運命を考えれば、そんなことができようはずがないのも、理解できたので、誰も何も云わなかった。あのカルマのアーリーが、敵前逃亡にも等しいそのような行いにどういう制裁を科すのか、想像するだに竜より恐ろしかった。


 「ま、とにかく、天気が回復するのを待ちましょう。竜どもも、もしかしたらこの吹雪ではあまり動かないかも……」


 中隊長の一人が云ったが、気やすめなのはみな分かっていた。

 クラリアはずっと仏頂面で押し黙っていたが、ふと、口を開いた。

 「天気が晴れるのを待つしかねえ……勝負はそれからだ……」


 その目が流星を放つガリアのように鈍く光り、怒りと屈辱に燃えている。中隊長たちはその殺気に寒気がした。じっさいに寒いだけではない。練達の暗殺者としての、底知れぬ凄みだった。


 幸いなことに、二刻ほどで晴れてきた。

 風が止み、雪もやんだ。

 時刻は深夜に迫っていた。

 「月だ……月が出てますよ」


 窓から外を見たフルトの一人が、外が急に明るくなったので窓越しに空を見上げた。

 その顔面めがけ、窓を突き破って雪花竜(せっかりゅう)の手が襲った!


 騒音に一同が気を引き締めるも、悲鳴もなくそのフルトは顔面を引き裂かれ……いや、短剣よりも巨大な竜爪でえぐり取られてひっくり返った。血を吹き出し、両手で顔を覆ってのたうったが、すぐに出血多量と脳まで到った傷でぐったりする。もう、全員が小屋をとび出ていた。


 そして、いま襲ってきた竜を探したが、残念ながら、明かりを放つガリア遣いがいなかった。ランタンごときの明かりでは、もう闇に消えた雪花竜を判別できようはずもない。どういう原理の擬態なのか、気配も音も、あの竜独特の金属臭の混じった臭いすら消してしまう。クラリアは今更ながら後悔した。火でも光でも電撃でも、一人でも本部へ置くべきだった。まさか竜がこのような攻撃をしてくるとは、考えもしなかった。ガリア遣いでありながら、これまで人を殺してばかりで、竜などほとんど相手にしてこなかった(むく)いだ。


 (あたいの責任だあ……)

 クラリア、情けなくて自死(じし)したくなるほどだ。


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