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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第4部「薄氷の守護者」
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第1章 1-4 異変

 あと、キャベツ類やキュウリ、キノコの酢漬け、などが備えつけで出た。デザートには、蜂蜜とベリー類のジャムもあった。天気が続くと狩りもできるので、兎や北の大きな鹿の肉が出るときもあるという。あと、もちろん新鮮な竜肉。ただし、カンナはそれも丁寧に遠慮した。どうも、竜肉にはあまりよいイメージが無い。


 温まって腹を満たし、人心地ついた二人は、その日はすぐにふかふかの毛長飛竜の羽毛布団でぐっすりとねむった。



 翌朝、かなり寝ていたつもりだったが、起きるとまだ暗かった。カンナは夜中と勘違いし、二度寝しようと思ったが寝付けなかった。そのうち、ライバが起こしに来た。


 「カンナさん、まだ寝てますか?」

 「いえ……起きてますけど」

 カンナがドアのカギを外し、ライバが入ってきた。


 「疲れてたんですね……でも、そろそろヴェグラーの事務所に行きましょう」


 「えっ? こんな早くからやってるんですか?」

 「ああ……」

 ライバは理解した。


 「暗いですけど、もう五刻(午前十時ころ)を過ぎてますよ」

 「ええ!?」


 「この時期は、日の出が遅いんです。あと半刻もすれば、明るくなってきます」

 「えーっ!!」


 カンナは素直に驚いた。夕刻前に暗くなり、そのまま昼近くまで暗いということだ。ウガマールのおとぎ話にあった、「はるか北の、一日中が昼の国と夜の国」といのは、本当の話だったのだ。


 急いで顔を洗おうと窓際の水盆を見たら、中の水が凍っていたのでさらに驚いた。確かに室内も息が白いほどに寒い。暖炉には、燠がまだ残っているのに。


 ライバが、自室の暖炉で沸かした湯を持ってきてくれた。それで氷を融かし、顔を洗って口も濯いだ。白樺の木で作った房楊枝で歯も磨いて、暖炉へ薪をガバガバとつっこむと食堂へ向かい、軽くライ麦パンとひよこ豆のスープを食べ牛乳を飲んで(牛乳は高価である)、出かけるころにはすっかり明るくなっていた。


 異変は、事務所へ続く道すがらで、もう分かった。



 緊迫したトロンバーの人々が、通りを行き来している。

 「どうしたんですか?」

 ライバが若い男性をつかまえ、聞いた。


 「斥候に出ていたフルトが、バグッ、バ、バグルスにやられたとか……!」


 若者は救護の手伝いに向かうのと同時に、バグルスの出現に明らかに恐怖し、動揺していた。


 「バグルス……」


 カンナとライバが、同時につぶやいた。若者は目を泳がせながら、事務所へ向かった。

 「ここいらにもバグルスが出るの?」


 「たまに……ですけど。なんせ、ここらは竜属の陣地に食いこむような形で領地がありますから、竜も山脈を越えて、まっさきにここを狙うんです。でも、来るのは毛長竜ばっかりで、バグルスというのは滅多に」


 「山脈って、あの?」


 カンナは湖の遥か奥の景色にかすむ、パウゲン連山とはまた異なる、稜線がノコギリめいて青い空に屹立している峰々を指した。


 「リュト山脈です。基本的に北方では、あの山脈の麓からが竜の国です。山麓からこっち側も含めて、です。なので、トロンバーの領地が隣接しているんですよ」


 「ふうん……」

 「とりあえず、行きましょう!」

 小走りで二人も向かう。


 あまり大きくないヴェグラ-事務所(旧スターラフルト出張待合所)の周囲には、人だかりができていた。手当のためや野次馬というより、バグルスの情報を知りたいのだ。ただの竜ならば、仕事で森や湖に出た彼らでも隠れるか逃げることも可能だが、バグルスは相手が違う。


 と、何人かのフルトが、板に仲間を乗せて事務所から出てきた。けっきょく、死んだようだ。鋭い爪で引き裂くのがバグルスの基本的な攻撃方法だが、右腕が肩口より破裂したように内部より砕けて無くなっており、カンナは訝しがった。もっとよく観察したならば、死体から大量の湯気が立っていることを疑問に思っただろう。


 二人はそのまま入れ替わりに事務所へ入った。

 「あ、ライバ……!」


 ライバを知っている背の高いフルトが、やや安堵した風で話しかけてきた。


 「三人で偵察をしてたら、襲われたって。かなりトロンバーに近かったようだよ。もう、バグルスが近くまで来てるんだ……やたら、主戦竜が出てくるとは思ってたけど……。一人はその場でやられて、二人で逃げてきたんだけど、いま、一人死んだよ」


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