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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第1章 1-2 カルマ

 衛兵ですら、屈強なガリアの遣い手だった。ただ、可能性が低いというだけで、セチュとして塔の門番をしているにすぎない。


 鑑定所の下男が平服に腕を組んで立っている二人の門番へ事情を告げると、ポカンと口を開けた三十歳ころの女性がカンナを見つめた。もう一人の門番もそれより若干年下の女性であった。鼻で笑ってカンナを明らかに見下している。鑑定所の老婆ではないが、可能性はあくまで可能性であって、カンナがこの門番より強いというわけでは必ずしも無い。ただ、最初の一回の鑑定で、カンナはサラティスバスクの最高峰であるカルマの正式な構成員で、彼女たちは門番なのだ。それが、この街の掟だった。


 塔の門を潜ると、鑑定所から付き添っていた男は門番へ向けてぺこぺこと頭を下げ、行ってしまった。何をして良いのか分からず、カンナが突っ立っていると、門番の一人が声をかけてきた。


 「どうぞ、中へお入りになり、そちらで登録をしてください」

 「あ、は、はい……はいっ! ……はい……」


 扉を開け、塔へ入る。窓が無く、やたらと暗い。しかしどこからか風が流れていた。暗がりを燭台の光に導かれて進むと、行き着く先に机があって、女性が一人座っていた。煌々としたランタンでペンを走らせている。カンナと同じくメガネをし、反射してそこだけ暗がりに浮きでていた。吸いよせられるように近づくと、ゆったりとしているが機能的なデザインの喪服のように黒いワンピースを着込み、茶に近いブロンドを後ろでまとめた女性が、意外に若いのが分かった。


 「どうぞ」


 落ち着いた声だけが出てきて、カンナは肩を震わせた。机まで近づいても、まだ女性は顔を上げない。言葉が出ないでいると、女性が次の声をだした。


 「名前。登録するから。名前」


 口が動いていない。人形ではないのか。これは幻覚を見せられているのか。


 「あ、あの……」

 「アノさん?」

 「カンナです」

 「カンナ……」


 女性が木のカードにペンを走らせる。そして、顔を上げ、サッとカンナへそのカルマの紋章の焼き印と二十三という数字の入ったカードをだした。その引き締まった顔に、カンナはどぎまぎした。


 「これが貴女の身分証。これで、貴女は正式にサラティス・カルマの構成員となりました。最上部に他のバスクがいるから、挨拶して。仕事はいつでもできますから。最初は、みんなといっしょにやってもいいし、一人でできるのならどうぞ」


 「できません」


 「じゃ、挨拶して。特に、古参のアーリーはカルマのまとめ役みたいなものだから。面倒みてもらって」


 「アーリー……」


 続けて女性は違う書類を丸めて帯をし、ベルを鳴らした。すぐにカンナと同じほどの年の少年が現れて、その書類を受け取ると暗がりの中に消えた。塔の下男だ。


 そして女性は再び下を向き、黙然と次の書類を書き始めた。一体何を書いているのだろう。そっとのぞいたが、小石のようなものを並べた盤でその小石をこまめに動かし、ひたすら謎の数字を羅列していた。


 「これは簿記の計算をしているのよ。塔の経理は全て私がやっているの。他に仕事の手配とか、みんなの報酬の分配、必要経費の処理も……部屋は、空き部屋がたくさんあるから好きなところに。分かったら早く行って。気が散って邪魔」


 カンナはすぐにその場を去った。


 ホールの内部は壁へ沿って階段があり、上階へ上がって行けた。蝋燭の炎が、階段を螺旋に導いている。塔は外から見るとゆうに十数階はあるが、中は大きく三層に別れていて、一階は吹き抜けのホール、中階は複雑に部屋が重なっており、幾つかの居室になっていた。窓がふんだんにあり、暗がりに目の慣れたカンナは眩しさに手で顔をおおった。ドアの数からしておよそ十部屋ほどあるように思ったが、表札番号があるのは数部屋のみだった。その階の真ん中にまた螺旋階段があり、さらに上がって行くと、上層部へ到った。最上階にはまた大広間があって、ここは再びとても暗かった。人の気配がしたが、よく見えなかった。ただ、真正面の大きな椅子に、大柄な女性が長い脚を組んで座っていた。ぼんやりと燭台の灯に濃い影が浮かんでいる。


 それが玉座に座る女王に見えたので、カンナは思わずひれ伏そうとした。

 「私はそのような高貴な身分ではない」


 落ち着いたアルトの声が響く。しかし、あまりに感情のこもっていない、冷たい声だった。


 「黒猫から報告を受けている」


 女性が椅子から立った。大きい。カンナは見上げた。二十キュルト(約二メートル)はある。女性はゆっくりとカンナへ近づいた。誰かがサッとカーテンを開け、日光が差し込んだ。カンナは再び目を細め、手を額にかざした。いま気づいたが、部屋の中には何人もの下女がいる。


 午後の強い日差しに、女性の赤く長い髪と、竜の鱗で作られたと思わしき軽装甲の真紅の鎧がさらに赤く映えた。鼻筋が高く、眉も赤くひきしまり、顎が細かったが、その身体は男にも負けない筋肉で覆われているのが鎧の上からも分かった。そしてカンナを見下ろすその紅い目は、光に瞳孔がキュッと縦長になる。


 (この人……竜の血を引いている……!!)


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