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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第3章 5-4 ファーガスの死

 燭台やシャンデリラに火が灯って、暗さに慣れていた二人は目を細めた。と云っても、しょせんはろうそくの集まった光だ。大型のランタンも置いてあるが、明るいといっても、側の人物が浮かび上がるといったていどだ。思わず、マレッティが照明代わりにガリアを発動する。今度はレブラッシュがまぶしさに目を細めた。


 そこにはアーリー、カンナ、レブラッシュそして商会の幹部が数人、いた。

 「マレッティ! ……が二人いる!?」


 カンナが目を丸くする。スティッキィはそんなカンナの、眼鏡の奥で翡翠色に輝く瞳と、光の粒を反射する黒鉄色の髪、そして漆喰めいた真っ白に近い乳白色の肌に、


 (この子がそうかあ……たしかに……こりゃ、まともな人間じゃないわねえ)

 愕然とそう思った。


 「どうしてマレッティが二人いるの? いままでどこに?」

 カンナが、いかにも素朴な疑問をぶつけてくる。


 「え、ええ……と、まあ、そのね、その、こっちは、あたしの……その……双子の妹のスティッキィよ。彼女もガリア遣いで……その……なんていうのかしら……」 


 珍しくマレッティ、額から脂汗を流す。見かねてスティッキィが、

 「ガイアゲンでフルトをやってるのお」


 「そ、そうなの。あたしも知らなくってえ。こっちで久しぶりに会ったものだから……しばらくいっしょにいたのよお。ねえ」


 「ねえー」

 声まで同じなので、カンナは驚いて声もない。双子というものを、初めて見た。


 レブラッシュは、マレッティが既にメストとなり自らの傘下となったことを、もちろんおくびにも出さない。


 「はじめまして……ステッキィにこんなお姉さんがいたなんて、全く知らなかったわ」

 などと、いかにも白々しく、握手をする。


 マレッティは、勘の良いアーリーがどういう表情をしているか、ちらりと盗み見た。が、アーリーは大きな椅子へうなだれて座ったまま、両肘を両膝へ置き、ぐったりとした様子を隠してもいない。顔色も悪い。


 「……ちょっと、どうしたの? アーリー」

 「……大丈夫だ……」


 明らかに大丈夫ではない。カンナを見たが、カンナも戸惑い気にマレッティを見返すだけだった。よもやカンナ、ガリア遣いを一掃した自分の攻撃でアーリーもダメージを受けたとは思っていない。


 「なに……怪我はしていない。休めば治るていどだ。すまないが、我々は、今日はこれで」

 アーリーが無理に立ち上がる。立ちくらみを起こし、よろめいた。


 「いけません。今日はここでお休みを。皆様も、どうか今後はガイアゲンへ逗留なさってください。私の命の恩人ですし、遠慮はいりません」


 「ですが……」

 スティッキィが、すかさず切り出す。


 「それがいいわあ。それに支配人、この建物には、大昔のサラティス風呂の跡があったと思ったけどお。改修して、カルマの方々に疲れを癒してもらいましょおよお」


 えっ!?


 風呂と聞いて、アーリーとカンナがレブラッシュを凝視した。

 その反応に驚いて、レブラッシュが、


 「そ……そうだったかしら? 調べておきます。もしそういうものがあるのだったら、是非そうさせてもらいます」


 それできまった。

 アーリーとカンナは、ホテルを引き上げ、ガイアゲンにしばらくやっかいとなる。


 とにかく、その日は、一行は暖炉に赤々と火の点る客室へ案内され、使用人の介助により濡れタオルで戦いによる身体の汚れを拭くと、高級なベッドへ身体を横たえた。



 その翌朝。


 寝こんでいたファーガスへ、女中が介護をしに部屋へ入った時だった。遅い日の出とほぼ同時にカーテンを開け、よく眠っているファーガスへ振り向いたとたん、ファーガスがやおら括目し、恐るべきうめき声を発して悶絶しだした。


 それがあまりに大きな声で、かつ苦しげだったので、廊下にいた他の使用人が数人、飛びこんできた。


 女中は固まって声も出ず、男の使用人が慌ててファーガスを抑える。

 「だ、旦那様! 旦那様アア!!」


 ファーガスは白目をむいて七転八倒し、すさまじい力で使用人たちをふりほどいて苦悶の声をあげ続け、そして口より大量の青い液体を高級で清潔なシーツへ吐きつけると、たちまちのうちに絶命した。


 使用人たちは、朝日に照らされて、茫然とベッドに横たわるファーガスを見つめた。


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