第2章 1 帰らない
第二章
1
「カンナが戻らないだと?」
その日の夜半、カルマの事務長がアーリーへ報告した。フレイラは大きな失望と怒りの嘆息に埋もれた。塔に門限は無いが、竜退治の後に新人が行方不明では話は別だった。
「まだあの森で、悄気こんでるんじゃねえのか!?」
フレイラが詰め寄ったが、若い事務長は首を横に振った。
「夕刻を待たずに、みなで土竜を解体しに行ったのですが、その時には、どこにもおられませんでしたので、てっきりお戻りになられているものだと……」
彼は大伯父からカルマの事務長職を継いでまだ一年だったので、不手際が無いわけではない。しかし、たとえ二日前に入った新人とはいえ、メンバーがその場にいるかいないかを見誤ることは無かった。
カルマの倒した竜はカルマのものであり、肉、骨、革、臓物、角、鱗などを売りさばき、重要な副収入となっている。もちろん、原形をとどめてうまく倒せた竜に限られるが。
今日も、雨が上がって暗くなる前に、事務長に率いられたカルマの職員総勢三十人余が大きな専用の刃物や入れ物を持って素早く土竜を解体し、利用できない部分は森へ埋めてきた。カンナがいたとしたら、誰かが必ず気づく。
「あの期待ハズレの大ハズレがッ……! もういいぜ、アーリーさん。あんなやつ、最初からいなかったことにしようぜ! モールニヤが帰って来たら、また四人で頑張ればいいんだ。いつ戻ってくるんだよ、あいつ」
「だあめよお。黒猫ちゃんに確認したけどお、モルニャンちゃんはストゥーリアまで遠征してるんだってえ。最低でも三か月は戻ってこないわあ。バグルスが都市内まで現れてる現状じゃ、カンナちゃんは使えなくてもお、あのズババーン剣は重要な戦力よお。いや、戦力にしないと、あたしたちが」
「そのとおりだ。まして、カルマの新人が三日と持たずに逃げましたでは、話にならない。首に縄をつけても連れ戻せ」
「はあー~い」
マレッティは生ぬるく返事をしたが、フレイラは眼を吊り上げたまま腕を組み、そっぽを向いていた。
「フレイラ」
「あんなクソ大ハズレなんか探してる暇なんて、あるんすかねえ! バグルスが連続して出現してるってえのに! オレは退治を優先しますよ。それでいいっすよね!!」
つばを飛ばして云い放つと、フレイラは螺旋階段を下りて行った。アーリーはそれを止めなかった。マレッティは二人を交互に見ていたが、
「じゃ、明日から、街をこっそり探しておきまあす。モクスルやコーヴの連中にバレないよおに……ね」
そそくさとフレイラに続く。
アーリーは椅子に座り込むと脚を組み、頬肘をついて瞑想を始めた。