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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第3章 1-4 メスト契約

 そこは応接間の一つである、(つるぎ)の間だった。壁に何十もの様々な剣が飾ってある。配下の暗殺者と会うための部屋ではない。カルマのマレッティとしての待遇だった。


 ソファに座り、メイドの入れた上等の紅茶を飲んでいると、やがてレブラッシュが秘書を伴って現れた。


 本当にそっくりの二人を見て、思わずレブラッシュが感嘆の声を上げた。

 「きれいね、二人とも……。ようこそ。あなたが、マレッティ?」

 「はい」


 マレッティが立って、丁寧にスターラ商家の目上に対する礼法による正式な礼をして、握手をした。


 「ガイアゲンの支配人を務めている、レブラッシュよ」

 「改めまして、マレッティです」


 レブラッシュが満足げにうなずいた。

 「座ってちょうだい」


 「はい」

 レブラッシュは、美しい双子の姉妹を目を細めて見つめ、話を切り出した。


 「スティッキィから聴いていると思うけど、どう? マレッティ。カルマのままでいいから、メストとして働いてみない? 二人で組めば、かなりの大物も倒せる。……ダールの暗殺もできるかもよ? 報酬は、貴女が満足できるものを保証するわ」


 「しかし、わたしはいずれ、サラティスに帰りますよ?」


 「かまわないわよ。今だって、メストの半分近くはあちこちに遠征してるんだし。サラティスにメストがいたって、何もおかしくない。現に、以前は何人か行っていたはずだし。指令はちょっと時差ができるけど……スティッキィをサラティスに派遣してもいいわ」


 そういや、シロン達は二年近くもパーキャスで仕事をしていた。暗殺任務ではなかったが。


 「わかりました。ぜひ」

 「さすが! 決断が速いわね」

 「ここまで来て……」


 マレッティはちらりとスティッキィを見た。スティッキィも、にこにこしてマレッティを見つめている。


 「断れるわけないじゃなあい」


 それは、断ったとして、メストの秘密を知ったまま無事にこの屋敷を出られるわけが無い、という意味だった。


 そしてそれもあるが、なによりマレッティにとっては悪い話ではない。いずれ、アーリーをも暗殺しようとしているマレッティには……。


 「それでいいのよ、マレッティ。われわれ商家にとって、最も重要な価値判断は、損か得か。それだけよ。いま、メストに所属して、貴女には得しかないはず」


 「はい。支配人……」


 老年の秘書が用意した契約書に、マレッティは迷うことなくサインした。これで、姉妹そろって暗殺者集団、メストの一員となった。しかも、同じ長の組織である。契約書には、事細かに禁忌事項が書かれている。が、およそ暗殺者として当然護るべきことばかりで、特段気にかかることも無かった。


 「よかった! 新しい凄腕の構成員を確保できて……。しばらく、スティッキィとつもる話でもしながら、いっしょに暮らしておいて」


 「え? しばらく? ホテルに戻るなと?」

 「仕事をお願いしたいの。さっそく」

 「…………」


 マレッティは、暗殺者どもにも負けずに鈍く光るレブラッシュの眼に、寒けが走った。

 「わ、わかりました」

 「心配しないで。貴女たちのためになる依頼よ」


 スティッキィが、そっとマレッティの手をとった。マレッティが顔を向けると、スティッキィが優しい笑顔で、小さくうなずいた。


 「わかりました」


 マレッティはもう一度、今度は力強く確信を持って回答した。レブラッシュが、満面の笑みでうなずいた。そして事細かに指令を聴くと、二人は本部を辞した。


 レブラッシュは爽やかな顔で、剣の間に残って、お茶をお代わりした。あまりにことがうまくゆきすぎて、鼻唄まで出る。


 つまり、レブラッシュはアーリー、マレッティ、そしてライバを通じてカンナと、カルマ三人の全員を手の内に囲ったことになる。それぞれを見張らせていた者の報告を聞くに、既にたったの一日でバーケンとファーガスの配下は半壊した。これで、容赦なく手を先に進められる。


 「さすがよね。ふ、ふ……まさか一日でここまで来るとは」

 「間違っても、敵にはできませんな。サラティスのカルマ」


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