第3章 1-1 スカウト
ガガガガガガ!! 耳をつんざく轟鳴。閃光とプラズマが空間を引き裂いた。黒剣がまるで蛍の光に包まれたかのごとく光って、バシバシと火花を散らせている。ライバは耳を押さえ、迷うことなくカンナから離れた。
「ふうぃいいいいいい!!」
カンナは狂気じみた叫び声を上げて、気合を昂らせる。
カンナの身体から、触手めいて稲妻がほとばしった。
その稲妻、ただ周囲に飛び散って放射しているかに見えたが、すぐにある一点めがけて収束して、その一点が動きながら稲妻の放射が集まって光の玉となって発光し、球電が発生してそれが膨張、それから一気に収縮して点となって大爆発を起こした。
その衝撃で通りが揺るぎ、ライバもひっくり返って頭を抱えるほどだった。まして通りぞいの家の人々は、天変地異でもおきたかと家内で震えたのだった。
爆風と爆煙が冬の冷たい風に乗って消えたそこには、なんと、空間に大穴が空き、穴の中には呆然と立ちつくしているダンティーナがいた。
「……まさ……まさ……か……」
そう、口走るのが精一杯だった。
「うぅあああ!!」
轟雷炸裂! 雷竜が怒りの息吹を叩きつけ、ダンティーナは悲鳴もなく一撃で感電して焼け焦げ、血肉が裂け、衣服や髪が燃え上がって倒れた。
空間に空いた大穴が、パキパキと音を立てて塞がってゆく。
ダンティーナは……いや、ダンティーナの死骸は、亜空間の奥に消えた。
カンナは急激に共鳴を失い、黒剣を手にしたまま、うなだれていた。
風の音だけが通りを過ぎている。
ライバは、寒さではなく、ぶるっと震えてカンナを見つめた。
粉雪が、舞った。
第三章
1
マレッティが朝の光に目を覚ますと、そこは見慣れぬ石造りアパートの一室だった。下着姿でベッドに寝かされ、部屋は暖炉の火が温かく、薄い毛布だけだった。寝床から懐かしくも自分と似たようなにおいがして、マレッティは自分がどこにいるのかすぐに分かった。
「どういうつもり? スティッキィ……」
軽く頭痛がして、マレッティは濃い金髪をかきあげた。一緒に寝ていたが、先に起きたスティッキィが水差しからカップへ水を移して、マレッティへ差し出した。
「ありがと」
マレッティがそれを一気に飲んだ。
「マレッティを、メストに誘いたいの」
「は?」
カップを落としそうになった。
「いいでしょ?」
「いや……だから、どういうわけで?」
「どういうって……」
「いまさらあたしと暮らしたいとか、やめてよね」
「それでもいいけどお?」
「だから、やめてって」
「殺そうとした相手と暮らすのはいや?」
「そりゃあそうでしょ」
「そりゃ、アタマのおかしくなった母親と妹を殺して逃げたんじゃねえ」
マレッティ、息を飲みこんだが、すぐに開き直った。
「そんなこと云ったってさ……狂ったあんたたち抱えて、マタ開き続けろってえ? 冗談じゃないわよ! あんただって、それがイヤでおかしくなったんでしょ!?」
「殺さなくたっていいじゃない」
「どっちにしろ死んでたでしょ」
スティッキィは肩をすくめた。
「ま、そおよねえ。狂った母娘で残されても、容赦なく部屋を追い出されて野垂れ死によねえ。あたしは、たまたま死に損なっただけ……。確かに立場が逆だったら、あたしもそうしてたかも! でも……昨日も云ったけど、むしろ感謝してるのよ。だって、あたしもガリアが出るようになったし……幻聴も聞こえなくなった! 治ったのよ! 代わりにガリアが語りかけてくれるの……」
ク、ケッ、ケ、ケ……と、スティッキィは虚無的に暗い眼差しで、ひきつったニワトリみたいな声を出して笑った。
それ、治ってねえだろ、とマレッティは思ったが、口には出さなかった。
「で? なんで……メストに?」
「メスト、もうかるわよ?」