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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第2章 6-3 音消しヤスリ

 色のついた風にも見えたが、弓字になった「何か」が、空間を引き裂きながらカンナへ向かう。カンナはわけが分からず硬直した。が、黒剣が自ら動いた。バアン!! という音圧がカンナを弾いて、カンナはふっとばされて地面へ転がった。斧の刃から飛びでたそれは、カンナのいた場所を削りながら飛んでやがて空間の途中で止まり、引き裂かれた空間の裂け目は、バチバチと音を立てて少しずつ閉じ、やがて消えた。


 「……!? !? ……!?」


 カンナは恐怖した。何が起こっているのかまるで分からない。あの歪んだ裂け目に触れると、どうなるのだろう。


 「ま、わかんないだろうねえ~。あたしもわかんないからね、へ、へへ……。でも、きみだって、自分のガリアが何をしているのか、わかってないだろ?」


 「またバカにして……!」

 顔を真っ赤にしてカンナは歯ぎしりしたが、その通りなのだった。


 「図星だろ? その黒い剣が何をどうして音や稲妻を出してるのか、さ」

 「うるさいな!」


 わかったからって、なんだというのだろう。共鳴を再開する。黒剣がダンティーナと共鳴をはじめる。ゴゴゴ……、ゴロゴロ……! 周囲に重低音と主に雷鳴が鳴り渡りだす。空気が震え、その振動が稲妻を生む。


 と、カンナはダンティーナの後ろに、大人の女性がおどおどしながらもその手に何かを持って立っているのを発見した。ダンティーナの斧が割った空間から、彼女も出てきたように見えた。その手に持っているのはなんだろう……? 


 (ヤ……ヤスリ?)


 それにしか見えない。大きな金属製の形成ヤスリだ。もちろん、ガリアなのだろう。


 ガリアだとすると、ダンティーナの補佐をする力があると観てよい。少なくとも、サラティスならば彼女はセチュとしてそういう役回りだ。


 じっさい、彼女、ルバータはその通りの役目をバーケンから云いつかっていた。しかし、彼女はメストではない。ましてフルトですらない。いや、名ばかりフルトとでもいうべきか。暗殺だの、竜狩りだのをできるようなちからのガリアではないのだ。歳は二十五で、十歳も年下のダンティーナの補佐として、たまたまフルトとして登録だけしていたのをバーケンに特に今回の仕事のため見いだされ、彼女にしてみれば高額の報酬で雇われた。おどおどしているのは、こんなガリア遣い同士の殺し合いなどとは無縁だからである。


 「…………!」

 「?」


 カンナ、ダンティーナがいきなり口をパクパクして何も云わないのを奇妙に思った。気づくと、ガリアの音も無い。黒剣の共鳴が! 無い!!


 「…………!!」


 また楽しげにダンティーナが口をパクパクする。カンナも何かしゃべったが、自分でも何も聴こえない! 


 「……!」


 ダンティーナ、何かを云いながらやおら巨大斧を振り上げる。カンナも黒剣を振りかざしたが、共鳴が無いものだから稲妻もまるで静電気だった。


 「……!!」

 あからさまに大口を開けて楽しそうに笑い、ダンティーナが何かを云っている。


 「……!」

 カンナも云い返したが、お互い、まるで聞こえない。


 ルバータは、怯えた表情でただ大きな(かな)ヤスリの柄を両手で握りしめ、やや離れたところから恐ろしげにカンナとダンティーナを見つめている。このガリアは銘すらない。ただ、一定範囲の中の音という音を完全に遮断するだけだ。ガリアの音すらも! 竜狩りにも、暗殺にも遣えない。サラティスで可能性鑑定を受けたならば、クィーカの腹話術のガリア「音の玉」のごとく、可能性はひとケタだろう。


 それは、あえて銘づければ、「音消し(やすり)」とでもなるだろうものだった。


 しかし、それがいまやカンナのガリアの特別な『力』を封じるものとして、絶大な効果を発揮している! 


 ガリアを戦略的に遣う、あるいは遣い方を指示できるものがいるといないとでは、まったくガリア遣いの個としての強さだけではなく、ガリア遣い軍団、ガリア遣い部隊としての強さに差がでてくる。


 「…………!」


 大戦斧が軽々と振りかざされ、ギラリと光る刃の部分が、陽炎めいてゆがむ。空間断裂!


 カンナ、走って回りこむ。一か所にとどまっていてはだめだ!

 「……!!」


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