第2章 5-6 スティッキィ
その声は、ちょっと高いが、まるでマレッティと同じだった。ゆっくりとマントのフードをとる。マレッティ、息が止まった。心臓まで止まるかと思った。
そこには、やや痩せたマレッティがそのまま、いた。髪の色も長さも同じだった。不敵に……いや、病的に据わりきった青い眼が、にたり、と笑った。
「帰ってきたんだあ……マレッティ……『お姉ちゃん』……」
「あんた……まさか……そんな……ばかな……!!」
マレッティ、震えて声にならぬ。
「生きて……たの……スティッキィ……」
「そおよお……」
とろん、としたスティッキィの眼が、急に殺気を帯びた。
「おかげさまでね!!」
一気に走り寄り、リットラの死体を跳び越えて、マレッティの双子の妹であるスティッキィが、そのガリア「死舞闇星剣」をふりかざす! マレッティは下がりながら間合いをとり、その攻撃を受けた。二人とも半身で先程のリットラ対マレッティと同じく、片手細身剣を打ち合う。打ち合いながら、二人とも同時に狭い距離での右の蹴りを見舞い、同時に足と足がぶつかりあった。裏カントル流対裏カントル流!
そのまま、足と足とを上げたままの姿勢で押し合う。片足立ちで身を捻り、同時に剣のカウルの部分で殴りつける。がっ、と互いの頬を殴りあって、一歩下がった。そして、光輪と闇星が同時にわっ、と噴き出る。壁に反射して、めちゃくちゃな方向から光輪と闇星が激しく路地を飛び交ったが、全てが狙いすましたようにぶつかりあって、互いに消えた。
「ぬああ!」
「イェヤアア!」
光輪をまとった剣と、闇星をまとった剣が再び激突! 凄まじい攻防が繰り広げられる。剣と剣だけではなく、互いに回し蹴り、足払い、横蹴りから前蹴りにそれらと剣の連携技に加え、避け方や受け方もしっかりと裏カントル流の正統であり、端から見ているとまるで高度な舞踊にも見える。剣が打ち合わされるたびに噴き上がる光と闇はしかし、まったく同等の威力であり、出現しては互いに干渉して即座に消えてしまう。
と、思いきや。
スティッキィの闇の方が、次第に大きくなってきた。闇がじわりと星の形から融けだしてきて、マレッティの光を飲みこみはじめた。
マレッティの手元が、真っ暗になって見えなくなった。自分の剣が見えない。
瞬間、一気にスティッキィの星形の闇があふれ出て、マレッティの視界をおおった。何も見えない。まさに闇だ。
同時に、強烈な前蹴りがマレッティの下腹部を襲った。沈みこむ踵にマレッティはたまらず腰から崩れて尻餅。
下腹を押さえて痛みに耐え、すぐに起き上がって剣を構える。まだなんとか、円舞光輪剣は光っている。
「あんた……そんな……ガリアだなんて……いつ……」
スティッキィの、にやにやした不気味な暗黒の笑みは消えない。眼が笑っていない。
「お姉ちゃんに殺されかけてから、あたしもガリア遣いになったのよお」
「う……」
マレッティ、気押されて後退った。ガリアの光が弱くなる。だめだ! 精神で負けてはならない!
「……じゃあ……」
「もういっかい、殺してあげるってえ?」
「ク……」
「二度と……あんな想いするのはごめんなのよおおお!!」
スティッキィが眼をむいて、猛獣めいてしなやかに踊りかかった。その艶消しに黒い剣身のガリアが、もの凄まじい速度で繰り出される。これは、先程のリットラの比ではない。マレッティは防戦一方となった。マレッティがサラティスでのんびり竜を退治していたころも、かなり稽古を続けていたにちがいない。
「う……ぐ……うう……」
マレッティ、死んだ……いや、殺したと思っていた妹と剣を交えているという現実に耐えられないショックもあり、ガリアも弱まる。心で負けるとガリアも負ける。
「そらそらそらそらあァ!!」
それにしても、圧倒的なガリアのちからだ。マレッティは自分のガリアが、消していたはずの過去の記憶を得て逆に研ぎ澄まされたと感じていたが、すべてぶっとんでしまった。それほどの衝撃だった。
剣にばかり集中している間に足払いをかけられ、呆気なくマレッティは後ろに倒れた。トドメに来たスティッキィめがけ閃光を放ち、足止めには成功する。