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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第2章 4-5 壊滅

 アーリー、驚いた。影を縫いつけられ、アーリーはまったく動けなくなった。斬竜剣を打ちつけたかっこうのまま、微動だにできない。炎を出そうと思ったが、これもだめだ! ガリアの“ちから”そのものを縫いつけられた。間髪入れず、デクリュースが襲いかかった。なめてはいない。アーリーを大量の銀鱗粉が襲うと同時に、デクリュースの鎌が振りかざされる。


 「その首、頂戴つかまつる!!」

 「どぅおわあああ!!」


 アーリーの眼が赤く光った。口から炎が吹き上がる。まるで半竜化だが……デリナとの戦いで半竜化してからまだ半年も経っていない。たたでさえ半竜化は覿面(てきめん)に寿命を縮める。回復し、次に半竜化できるとしたら、最低でも三十年後だ。いまやれば、最悪死ぬかもしれない。では、これは……!?


 「ぬうぅあ!!」


 歯を食いしばり、両脚を踏みしめて、気合をさらに入れる。これは半竜化までもない、アーリーが炎の気合を入れただけだ。だけなのだが、バグルスをも一撃で叩きつぶすアーリーである。メストとはいえ、サラティスではコーヴ級のガリア如き、アーリーが四肢の筋肉を膨張させ、強引に動かすと、縫われた影も膨れ上がって、毛糸を引きちぎった。


 「げぇっ……!?」


 ドリガが驚愕のあまり、カエルめいた声を発した。まさか、力まかせに、いともたやすくこの影縫(かげぬい)のガリアを引きちぎるとは!! そんなことができるものなのか!? ドリガは唖然として、へなへなとその場にへたりこんだ。ガリアが消えてしまう。


 もう眼前に迫ったアーリーがいきなり動き出したのでデクリュースは息を飲んだが、かまわず振りかぶった大鎌をその首めがけてたたきつけた。銀鱗粉が炎ごとアーリーを削り取り、その首も鎌の刃が襲う。


 ガッシと衝撃があり、クレイスの巨大万力ガリアをも強引にねじりはずした斬竜剣が鎌を防いだ。溢れ出る銀粉には、アーリーの無尽に噴き出る炎が対抗する!


 獣のような唸り声を上げてアーリーが大剣を捻りこんで大鎌をひっかけ、いったん下げてから()り上げた。デクリュースの手から、ガリアがもぎ取られるようにしてぶっ飛んでしまう。デクリュースは無防備に為す術無く万歳だ。


 斬竜剣を振りかぶったアーリーが、そのまま水平に剣を落とし、そこから胴払いにデクリュースへたたきつける。大猪竜ですら真っ二つにする斬撃は、デクリュースの細い胴体など木っ端みたいに切断した。


 「げぇあ、はああ……!!」


 小枝よりもたやすく両断されて血と臓物をぶちまけながら転がり、燃え上がるデクリュースを確認するまでもなく、クレイスはガリアも消して踵を返そうとしたが脚が動かなかった。パン、と太腿を叩き、一気に逃げる。も、その時には胃のあたりの体の中に絶望的な熱が出現して、クレイスは半泣きに顔を歪めると、悲鳴ではなくズボァ! という炎の吹き上がる音を口から発して、上半身が半分爆発し、花火めいて火にくるまれた。そのまま立って火を吹きあげていたが、すぐに膝から崩れる。もう、骨まで燃えており、めらめらと石炭のように燃える赤い頭蓋骨が、首からもげて転がった。


 宵闇の中に炎と雪とが入り混じる幻想的な光景に、ドリガは放心してどこを見るともなく尻餅をついていた。アーリーが近づいて炎の大剣を向けると、初めて気が付いて、たちまち涙をこぼしながら眼をつむり、顔をくしゃくしゃにしてひたすら手を合わせて祈った。ここにきて命乞いである。


 「……」


 アーリーは右手を大きく振ってガリアをひっこめると、無言で、何もなかったような静けさで歩き出した。もう、ドリガの心が折れてガリアを遣えなくなったと看破したのだった。


 しかし……メストの秘密を知っているドリガが、暗殺に失敗したうえ、ガリアが遣えなくなりましたからといって素直に引退できる世界ではあるまい。アーリーが手を下さずとも、いずれ消されるだろう。


 事実、それから二日後、袋に入れた楽器と小荷物、それにこれまでに稼いだ大金を持ったまま、鋭い刃物でのど元を切り裂かれたドリガの死体が、路地裏で発見される。冬の冷気に、半分凍りついていた。スターラから脱出する直前のことだったという。

 


 5

 

 さて、マレッティはアーリーが四つ辻で敵と戦っていたころいったんホテルへ戻ったが、朝方にまた出かけて行った。そしてその日は帰らなかった。常にフードを深くかぶり、防寒とみせかけて巧妙に顔を隠していた。


 いったん夜にホテルへ戻ったのは、五年……いや、もう七年だ、七年前の記憶がすでに薄らいでおり、自分の実家のあった場所がわからなかったからである。


 これは、意図的にと、無意識に記憶を消去しているからだ。それほどの事件があって、マレッティはこの街を捨てた。


 それなのに、どうして彼女は再び実家を……正確には実家の跡地を探しているのか。


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