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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第2章 4-4 連携

 ドリガは、こんな毛糸のガリアでは竜の退治にはほとんど役に立たないので、ただ単にもっぱら暗殺専門で稼いでいる。表の仕事は、三絃のスターラ地方の民族楽器スタロールを抱えた流しのしがない民謡歌手だった。三十二歳とベテランの歳まで五体満足なのは、自分で倒せる程度の者しか暗殺しない(というより、できない)からだ。


 だが、今回の仕事はちがった。相手はかのカルマのアーリーだ。普段なら回っても来ない相手だが、今回はファーガスたっての指示だった。


 「おまえの力が役に立つ」


 そう、ファーガスは云った。ドリガは奮い立った。報酬も高いし、メスト筆頭を保証してもらえる。三人でやっても、だ。ドリガは、自分は補佐でよいと考えていた。だから正確には、かつてのヴィーグスのように、筆頭メンバーの下っぱとして仕事が来る。自分のガリアで、この明るさならば、夜でも役に立つだろう。


 「よし……うち合わせ通りにやるよ……三人でやれば……きっと勝てる……!」


 デクリュースが囁く。その囁きに合わせて、アーリーが自らのガリア「炎色片刃斬竜剣(えんしょくかたばざんりゅうけん)」を出現させた! 


 三人が息を飲む。幅広の剣身はアーリーの身長ほどもあり、灼銅(しゃくどう)色に輝いて炎を吹き上げている。その三分の二ほどが片刃の刀身で、三分の一ほどが長い柄だった。アーリーは片手で軽々と斜に構え、ぶわっと振り回すと炎の壁が三人とアーリーのあいだに立ち上がった。


 三人ともその威容に呑まれて、思わず半歩、後退(あとずさ)る。が、ひるんでいるわけにはゆかない。一人一人ならばとうてい勝てないだろうが、三人で戦うことに意義がある。まして、ふだんはけして協力しあわない異なる組織同士の連携だ。


 もう、ここまで来たらやるかしかない!


 デクリュースが大鎌のガリア「銀鱗粉疾風穴付大鎌(ぎんりんぷんしっぷうあなつきおおがま)」を振り上げる。その銘の通り炎に照らされて光る銀粉が地吹雪めいて鎌から……いや、鎌の穴から舞って、それが吹きこむ鋭い風に乗ってアーリーへ襲いかかった。


 「……む!」


 ただの粉ではないことは、アーリーも即座に理解する。毒か。麻痺か。幻覚か。アーリーの炎は解毒(浄化)の力もある。ガリアから炎が吹き上がって、炎の壁もさらに高く吹き上がり、銀粉を囲った。が、その炎が風に寸断され、千切れて吹き消えた。デクリュースがさらに鎌を踊るように振りかざすと、次々に銀粉を伴った風が大鎌の穴より吹きこんでアーリーの炎を切り裂いた!


 この光る粉は、云うなれば細かい風の刃か。アーリーの炎の壁が、次々に風へ削り取られてゆく。

 ついに、壁の正面の炎がかき消えて、アーリーの正面ががら空きとなった。


 そこへクレイスが、柄のついた曲長箱(まがりながばこ)のガリア「螺旋炎噴出万力(らせんえんふんしゅつまんりき)」を振り上げて走った。


 つまり、その箱のようなものが支点からがっぱりと大口を開き、火を噴きながらアーリーめがけて迫る! これは、云うなれば巨大ペンチだ!


 しかも炎対炎!

 アーリーに対し、炎の勝負を挑むとは!

 「ぬうむ!」


 アーリーが斬竜剣を叩きつけた。と、クレイスががっちりと幅広の剣身をそのペンチで受け、捻って押さえつける。体格はアーリーよりはるかに小さいものの、なぜかガリアは凄まじい力で、アーリーは大剣を挟みつけられて押すも引くも動けなくなった。しかも、万力ペンチの口から吹き上がる炎が、渦を巻いてさらに勢いを増す。その炎が斬竜剣の炎と交じり、すさまじい熱が二人を(あぶ)った!


 そこへ、銀鱗粉が吹きつけてきた。ごっそりとアーリーの周囲の炎を削りとってゆく。デクリュースの大鎌の舞が、さらに動きを大きくする。鋭い風に乗った鱗粉がアーリーの頬をかすめた。痛みが走り、血が噴き出た。風ではなく、この銀の粉が物体や……炎までも削り取るのだろう。そういうガリアだ!


 アーリーは歯を食いしばり、強引に眼前の万力へ大剣を押しつけた。ガ、ギッ……と、斬竜剣の刃が食いこむ。炎が吹き上がって、熱波がクレイスを襲う。クレイスの炎もさらに音を立てて吹きつけて、ペンチで斬竜剣をひねり、押し返した。


 その硬直状態に、ドリガが背後から躍りかかる。青い毛糸の先に太く巨大な縫い針がある。まさかこれでアーリーを刺そうというのか。


 「とおうああッ!」


 ドリガ、気合を入れ、赤々と自らのガリアの炎に照らされるアーリーの長い影に、縫い針めいて太針と毛糸を打った。瞬時に毛糸がうねって、アーリーの影を地面に縫いつけた。これぞガリア「影縫青色糸(かげぬいあおいろいと)」であった。


 「いいよ、二人とも!」


 ドリガの叫びに、クレイスが一足跳びに下がった。続けてドリガめ、毛糸の端を持って引き絞る。


 「む……!!」


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