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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第2章 4-3 3人の暗殺者 

 赤々と燃え盛る火の塊を観て、恐怖や違和感を覚えたものは、まだ見込みがある。ガリアも出さずになめられたものだと感じたものは、しょせん三流ということだった。迫る七人のうち、二人が思わず歩をゆるめた。


 「ぬぅああ!!」 


 アーリーの暗がりに開かれた赤い瞳孔が、再び光で細くなる。幾筋かの炎の柱が渦巻いて冷気を吸い、うねり狂って周囲を舐めた。


 「ギァア!」


 まるで油を染みこませた藁人形めいて一瞬で火達磨となり、暗殺者たちのうち、アーリーへ不用意に接近した五人がガリアも何もなくひっくり返ってのたうった。


 「うああああああ!」

 「熱イイィィ!!」

 「ああああつぅいぃいいいィィ!!」


 断末魔も凄まじい。ガリアも無しにこの人数を一撃で焼き尽くすとは、凄まじい“ちから”だ。怯んでその場にいた二人は、惨劇を顧みることなく、もう、逃げていた。むしろ賢明であると褒められてしかるべきだろう。


 ガリアの火であるから勢いも尋常ではない。悲鳴も呻き声も無くなった五人がたちまち身体の芯から燃え上って炭化する。その人間松明に照らされた辻に、空いていた一方の道から、おそらくアーリーがそこへ逃げこんでいたら挟撃しようとして潜んでいた三人の暗殺者が、ゆっくりと現れた。こちらが本命だ。


 「さすが……一筋縄じゃいかないねえ」

 「びびってるの? 二人とも」

 「そりゃビビるさ、こんなバケモノ……」


 「いいか、抜け駆けは無しだ。抜け駆けなんかしてたらこっちが死ぬ! こいつ、半端ないよ……これがダールだ!」


 「わかってる……」


 一人は意外に余裕、一人は緊張気味、一人は気合が入って紅潮している。アーリーが流し目で三人を油断なく観察する。既に三人ともガリアを出している。その輝きや存在感から、並のガリア遣いではないと知れる。凄腕の暗殺者だろう。 


 三人ともスターラ人に見えた。真ん中にいる余裕の顔の女は背が高く、夜なので正確な色はわからないが暗い色の長髪を時折吹き付ける冷たい夜風に流している。目を引くのは両手にもつ長柄の巨大な鈍色(にびいろ)の鎌だった。鎌には、大きさの異なる丸い穴が三つきれいに並んで空いている。名をデクリュースという。歳は二十八。


 アーリーから見てデクリュースの右にいる、人体の燃える炎に濃い短く刈った金髪を赤く染めている中背の女は、名をクレイスといい、いかにもやってやるぞと勇ましく興奮している。その手にはこれも独特のガリアがあった。赤銅色に輝く巨大な物体……先端が嘴のように曲がった、両手で抱えるほどの大きな柄のついた箱のようなものを手にしている。少し形の変わったハンマーと云っても良い。歳は二十四だった。


 変わって、デクリュースの左側には緊張で顔をひくつかせている、これもやや背の高い中背で茶色い髪を後ろで結んだ女、名をドリガという。歳は最も上で、三十二歳。ガリア遣いとしてはベテラン。そのガリアはよく見えないが、とても強く存在が伝わってきた。握った両手の間に、太い毛糸のような線がある。あれがガリアだ。


 三人は、デクリュースとクレイスがバーケンの組織、ドリガがファーガスの組織にいる暗殺者だった!


 三人とも、最初は並んで近づいてきたがやがて微妙に距離をとって離れ、澱みなくアーリーへ近づき、辻へ入って止まった。今の攻撃で炎の間合いを測り、ぎりぎり間合いを外しているのはさすがだった。


 「名を……きいておこうか」

 アーリーが低くよく通る美しいアルトの声を出した。

 「やれやれ、名乗る暗殺者がいるものかい」

 デクリュースが肩をすくめる。


 デクリュースとクレイスは、普段はフルトとしてグラントローメラ商会から報酬を得て「商会のために」竜を狩っているが、メストとして暗殺の仕事もする。


 デクリュースは、本当は暗殺稼業などしたくなかったが、実家の小さな食料品店がグラントローメラに多額の債務があって、どうしようもなかった。もちろん両親を含めた一族には、暗殺に手を染め、ましてスターラの裏を支配するメストの一員というのは知られていない。立派にフルトとして竜を狩っていると思われている。


 クレイスは、特に何も考えずに、淡々と人を殺している。パーキャスの傭兵バルビィではないが、「竜を殺すが、人も殺す」というやつだ。


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