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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第1章 4-4 土竜

 「でも……わたしでも勝てたんだし……」


 フレイラが止まる。突然振り向いて、カンナの胸元をつかんで顔を引き寄せた。


 「いいか、バグルスったって……ピンからキリだからな。おまえが勝ったのは、偶然だと思って気ィ抜くんじゃねえぞ!」


 カンナは返事もできなかった。


 森へ入ると、急に風が強くなって、木の葉が舞った。そしてやおら大粒の雨が落ちてきた。フレイラは慎重に歩いて、足音をたてない。カンナは緊張しつつ、バキバキ、ガサガサと枝を踏んで歩いていたので、フレイラが頭を抱えた。


 「おまえなあ……いや、もういいぜ。最初からなんでもできたら、人間、苦労はねえからよ。戦いになったら……無理するなよ。絶対、オレの指示に従えよ」


 「はい……はい」

 「おっと……聴こえるか?」


 フレイラが身を低くし、木々の合間をのぞいた。カンナは雨音と風の音しか聴こえなかった。メガネに水滴が流れ、目もよく見えない。


 「何か食ってやがる。何かって……きまってるがな」


 大きな小山が動いていた。それは竜の背中だった。鎧状の大きな甲羅だった。雨にぬれて黒々と光っている。長い尾も見えた。尾の先端に刺だらけの瘤がある。これが通称・土竜(モグラ)という、地中潜行型の竜だ。


 土竜がガサガサと藪を揺らして向きを変えた。全長はおよそ五十キュルト。尾が長い。背中の高さは二十キュルトほどだろうか。大きいが、竜としては中型だった。翼はもちろん無い。前足が地面を掘り進むため、耕運具(プラウ)のような形をし、爪が異様に大きい。顔は小さく、尖っている。その口元がバリバリと何かをかじっていた。すぐに分かった。人間の下半身だ。


 「竜が家畜や人を食いやがるから、オレたちは食うものが少ねえ。そりゃ、金を払えばなんでも食える。金のねえ連中は、冬はたいへんだ。……そのかわり、オレたちがぶっ倒した竜を食ってるんだ」


 やっぱり、ここいらじゃ倒した竜を食料にしている! カンナは衝撃だった。ウガマールでは考えられないことだったが、ウガマールなどは、年に何度か偵察の軽騎竜が現れて大騒ぎする程度でしかなく、南国ということもあって食料はふんだんだった。サラティスはまだウガマールからの交易路を確保しているからましで、ストゥーリアでは、冬は深刻な食料危機が訪れ始めているというのは、本当なのだろう。人を食うとはいえ、巨大な肉の塊が手に入るのならば、それを口にするのは自然だった。


 ここは、竜が人を食い、人が竜を食うという修羅場なのだ!

 「バグルスはどこだ……」


 フレイラのつぶやきに、カンナは思い出した。そうだ、本命はそっちだ。


 竜の影から、やけに太って背の高い人物が現れた。半裸で、雨にぬれている。肌は異様に色白く、肩から背中にかけて黒い鱗があった。長い髪も真っ白で、仮面をかぶったように眼の周囲だけ黒く鱗がある。その目は、真っ赤だった。バグルスだ。人の腕へかぶりつき、その鋭い歯で肉を削いでいる。


 「うぇっ……」


 白い骨と赤い肉、黄色い脂肪にカンナは気分が悪くなった。食われているのは誰だろう。バスクか。それとも。


 「カンナ、オレがバグルスをやる。初めて見るやつだが……初手から全力だ。おまえは土竜をやってくれ。ただし、絶対に無理するな。囮のつもりで、引きつけろッ」


 カンナが返事をする前に、フレイラは跳び出ていた。バグルスが振り向く。フレイラは鋭い吐息と共にバグルスへ踊りかかった。


 フレイラは格闘戦の合間に、針を打つ。幻覚と麻痺の針は、本来であればアーリーのような主戦を担う仲間の補佐が役目であり、自らが矢面に立つ場合であっても暗殺が本領だ。このように、まともに相手と向き合うのは、あまり得意ではない。が、カンナとペアでは仕方がない。


 土竜が吠えたので、カンナはその前に出て、黒剣を振り回した。

 「ホ、ホラッ、あんたの相手はわたしよ!!」


 土竜がカンナを威嚇する。でかい。臭い。恐ろしい。カンナは泣きそうになった。


 「ばか!! 竜の正面に立つなッ!!」


 カンナはあわてて身をひねった。轟然と土竜が細い口から炎を吹いた。危なかった。熱気に木の葉が焦げる。


 フレイラはカンナへ振り向いた隙に、バグルスの強烈な突っ張りをくらってぶっとんだ。こいつ、かなりの肥満体のくせにやたらと動きが素早い。そしてすさまじい力だ。四、五十キュルトも飛んで草むらに転がった。全身へ衝撃が走る。だが、張手をくらった瞬間に、その腕へ針を一本、間違いなく打ち込んだ。


 「へ、へへ……せいぜい夢見てろ!」


 フレイラの太い針は強烈な幻覚を竜へ見せ、また相手によっては猛烈な痛みと痺れをもたらす。その間に、フレイラが「竜の魂の芯」と呼ぶ急所へトドメの一針(いっしん)を打つと、竜は即死するのである。


 だが、相手はバグルスだ。腕への針では、止めを刺せるまで「酔っぱらう」には時間がかかるだろう。フレイラはカンナの助っ人へ回ることにした。


 案の定、雨の中、カンナは土竜に攻めこまれて喚いているだけだった。


 「おい! カミナリが出るんならそれを使えよ! ガリアは竜へ特別な傷を……」


 フレイラの身体が浮かび上がった。何事かと思ったら、バグルスがフレイラの腕をつかんで持ち上げ、地面へ叩きつける。



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