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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第2章 3-2 レブラッシュ

 「はじめまして、アーリーどの」


 アーリーが振り返る。大きな扉が開いて、すらりとしているが、意外に服の下はがっしりとした筋肉を有している動きの女性がさきほどの老爺を伴って現れた。よく手入れされた鳶色の長いストレートの髪をたなびかせている。歳の頃は、四十代半ばといったところか。目も鳶色に近いブラウンだった。


 「はじめまして」

 「当商会の支配人をしております、レブラッシュです」


 二人が握手をする。レブラッシュはアーリーの胸下ほどの背の高さだった。アーリーが特別に大きいのだが、スターラ人女性としては、背は低くもないが、あまり高くもないほうだろう。マレッティと同じほどだ。


 「応接室に、古い甲冑が並んでいるのは奇妙ですか?」

 「いえ……」


 「当家は代々このスターラで金属生産と加工、製品および原材料流通を生業としております。ここは『鎧の間』です。『剣の間』や『楯の間』もございますよ」


 「そうですか……」

 アーリーの鋭い視線が、とある鎧に止まった。


 「あれは、女性用ですか?」

 「甲冑に興味がおありですか? そうですね、古い女性騎士の鎧と伝えられております」


 レブラッシュも、その甲冑へ視線を移した。その甲冑こそ……メストの秘密会合で、バーケンや仮面と共にいた、あの甲冑ではないか!!


 「あれは、いまでもお使いに?」

 アーリーの竜の瞳が油断無く、甲冑からレブラッシュへ動く。

 「いいえ?」


 「少し、位置がずれております。他は整然と並んでおりますが、あれだけ、少し位置がずれている……最近、誰かが着用しましたか?」


 「いいえ、まさか……ずれているのだとしたら、掃除の際にずれたのでしょう。また、鎧は定期的に入れ換えますし」


 「そうですか」


 レブラッシュが、アーリーを促して先に座らせた。すぐに秘書がここでは高級なラズィンバーグ産の紅茶を用意する。


 「ところで、お手紙の件ですが……アイラどのからの提案は、基本的には見送らせていただきたいものです」


 そう云ってレブラッシュの眼の光が、アーリーに負けないほど鈍く光った。アーリーが表情を変えず次の言葉を待っていたので、レブラッシュは続けた。


 「フルトたちガリア遣いの相互互助組織というか……街の人々が竜退治や竜狩りを安く依頼できるようにという発想は、我々資本の側には、なんの利益も無いのですよ」


 アーリーが反論する。


 「そんなことはございません。ガリア遣いは数が限らている……使い捨てにしていては、竜に対抗するものはそのうちいなくなるでしょう」


 「質は保っております。我々が、高い報酬を払って。腕のよいガリア遣いは、むしろ我々が確保し、保護しております。質の悪いガリア遣いが安く竜退治を請け負い、料金だけもって逃げてしまう被害もあるのですよ。サラティスでは考えられないことでしょうが」


 「そのために、責任ある組合なり組織なりが必要なのです。盗賊まがいのことをするガリア遣いも淘汰されるでしょう」


 「既に、我々商会がその組織の役割を担っております」


 「常時はそれでよいでしょうが、非常時にはどうでしょう。我々は竜どもの大規模な侵攻を経験しました。準備を怠りなく進めてきたつもりでしたが、その結果は薄氷の勝利といったところでした……。ガリア遣いの組織を固めていてもその有り様です。このままでは、スターラは為す術無く竜属の手に落ちるでしょう」


 「そうなればなったで、我々の生活に何か変わりがあるのでしょうか?」

 「なんと申される!?」


 思いもよらない言葉に、アーリーの顔がさすがにややこわばった。

 「竜に支配されて、何も変わらぬと!?」


 「変わりませんとも。少なくとも、われわれは……竜と人は共存できる。そういう考え方もあると思いませんか。ただ、竜を退治するだけ……というのでは。それは、竜の国のご出身であるアーリーどのもよくご存じのはず」


 「ふうむ……」

 アーリーは目を細めた。そのような考えを持つダールを一人、知っていた。


 紫竜の娘、ダール・ガラネルである。

 ガラネルの手が、スターラの実力者にまで及んでいると観てよい。


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