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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第2章 2-2 アイラの手紙

 「宿がここにあるからな」 

 「なあんでこんな場所の宿をとったのよお?」

 「大量の湯が用意できるのは、ここしかないからだ」


 マレッティが黙ってしまった。その通りだ。湯か、きれいな空気か。二者択一。


 「……ま、今日は風がないからあ、ちょおっと澱んでるのよお。冬は風が強くて、そういう日は寒いけどこんな空気じゃないわよお」


 自分は慣れているからと、マレッティはカンナへ何も云わせない。


 三人は工場群の外れにある、意外としっかりした宿というかホテル「鉄火」に入った。四階建ての都会的な石造りで窓も密閉式とあって、建物の中ではまともに呼吸ができた。労働者向けの宿と思いきや、直接工場へ買いつけに来る個人商人向けの宿なので、内装もこぎれいだ。なにせ、グラントローメラのような大手の商会を通して仕入れると、二~三割は高くなる。


 三人はアーリーの部屋で打ち合わせを始めた。

 「なるほど……窓もこんなしっかりしてたら、盗聴も防げるものねえ」


 マレッティがようやくフードをとり、離れた場所から窓の外の無機質な煉瓦造りの工場の並ぶ様子を眺める。


 「で、モルニャンちゃんは? ここにいるんじゃないの?」

 「それがな……」

 アーリーは先程フロントで確かめた、衝撃の事実を話した。


 「モールニヤはこの宿を拠点に、偽名で活動していた。その名は、アイラという。ここで落ち合う予定だったが、アイラから私宛に手紙が残されていた。それが、これだ」


 マレッティが奪うようにそのウガマール紙の封書をとって拡げた。懐かしい、間違いないモールニヤの字で、したためてあった。


 それは、置き手紙だった。

 一読してマレッティ、呆れた声を上げた。


 「なあによこれえええ!?」

 「ど、どうしたんです!?」


 カンナも、マレッティから手紙を受け取って読む。モールニヤ、いやアイラの字は癖があって、読みづらかった。よく分からないうちにマレッティの声。


 「あの子、あたしたちが遅いからって、パウゲンに出迎えに行ったってわけえ!?」

 「そのようだな」

 「パーキャスなんかに寄ってるからよお!」

 「どちらにせよ、海路では遅い。日付は一週間ほど前だ」

 「バソから連絡しなかったわけ!?」

 「したんだが……悪天候でハトが届かなかったようだ」

 「何を暢気に……」

 マレッティが絶句する。

 「……で!? 手紙によるとゴット辺りにいるみたいだけど!?」


 ゴット村とは、スターラ側のパウゲン連山越えの拠点で、サラティス側のバソ村と同じ機能をもっている。ただし、温泉はない。


 「ゴットにいると思う。既に飛脚を頼んである。急ぎ、スターラへ戻るようにな」


 「あたりまえじゃなあい。で、モル……アイラちゃん? がやってたっていう、ガリア遣い組織の立ち上げはどうなってるの?」


 「そこまでは書いてはいないが……こちらでは伝統的に、フルトというのが竜を退治し、冬場はむしろ竜を狩って食糧にするという。その者らをまとめ、組織的に竜と戦えるように手筈を整えているはずだ。そうでなくては……ホルポスの侵攻には太刀打ちできん」


 「ホルポス……」


 マレッティがハッと息を飲み、黙りこむ。彼女の真の主人であるダール・デリナの呼びかけにようやく応じ、この冬にもスターラを侵攻するというダール・ホルポス。白竜の孫。しかしマレッティは、デリナとの次の連絡をどのようにとればよいのか、見当もついていなかった。


 「アイラは、竜退治の組織というより、スターラの特性にあわせ、竜狩りの互助組織を想定していたようだ。出資者を募り、資金の少ない者でも竜退治や竜狩りを依頼でき、かつまとまった報酬がフルトたちに入るようにな」


 「そんなもので、ホルポスの侵攻に対抗できるの?」


 「まずはそういう名目でフルトたちを集めておいて、あとは彼女たちが自ら動いて対処してもらう。そうでなくば……依頼主の都合だけで動かれては、各個撃破されてあっというまにスターラは竜属の手に落ちるだろう」


 「……それで、あたしたちはわざわざここまで来て、何をするわけえ?」


 「小口の出資者は幾人か集めたようなのだが、大口は、さすがに財布の紐がきつい。私が自ら出張って、出資を頼もうというわけだ」


 「カルマの資産を担保にい? よくそんなもの、あのドケチ猫が許したわね」


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