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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
151/674

第2章 1-1 密室鼎談

 第二章

 

 1


 いつも、その秘密会合は特定されないスターラのどこかの建物の密室で行われていた。毎回、開催場所が変わる。大きく古い建物の地下や、豪華な建物の一室や、時には掘っ建て小屋めいた物置のような場所の場合もあった。とにかく、必ず部屋は真っ暗闇で、ひとつの燭台を中心に、三等分の場所にそれぞれが座る椅子が三つ、置かれていた。


 椅子は、常に三人分のみ、置かれていた。つまり、会合のメンバーは常に三人だった。


 今回の会合にも、既にメンバーのうち二人が席に着いていた。ただし、彼らの姿はいつも同じ異様な装束に包まれ、顔が分からない。


 一人は、古連合王国時代の仮面夜会用の派手な飾り物がついたマスクをつけ、口元しか見えない。その口元は、あまり若くない雰囲気を漂わせている。性別は男だ。マントをはおっているが背が高く体つきは華奢だった。


 一人は、同じく連合王国時代の全身甲冑を身につけ、顔もフルフェイスのヘルメットにおおわれ、性別すら分からない。背もそれほど大きくなく、声も良く分からないが、女性ではないかと他の二人のメンバーは思っていた。燭台の明かりに、磨かれた薄板金が橙色にゆらめいている。


 もう一人が、遅れて到着した。こちらは、眼のところだけ空いた黒布の覆面をすっぽりと被り、仮面と同じくマントで身体を隠しているが、中肉中背の、恰幅の良い男性だと分かる。


 「もうしわけありません」

 闇の奥から出現した覆面が急いで席に着いた。その声は……なんと、バーケンである。


 「招集者が遅参とは……」

 仮面が、少々苛立った声を発した。(しわが)れている。

 バーケンは、息を整え、何も答えなかった。仮面が舌を打つ。


 「ともかく、では、“メスト”をはじめるとしよう」

 仮面の宣言で、秘密会合が始まった。

 彼ら三人は、スターラの裏社会を牛耳る、メストの幹部だった。


 『メスト』とは、特定の組織名ではない。この秘密会合そのものの名前だった。しかし、それを知るものはこの三人しかいない。つまり、メストの名を知るものは、メストという組織があると思い込み、敵対するにせよ、接触しようとするにせよ、その組織を追うのだが、そんなものは存在しない! したがって、いつまでもメストの実態にたどり着くことはない。


 では、この三人はいったい何者なのか。


 彼らは、それぞれ個別の暗殺者組織の元締めであった。正確には、元締めの代理人だ。元締めは、スターラの某大商人二人と、都市政府の大物一人、といわれているが、彼らは自分の主人以外の元締めの正体を知らない。それどころか、彼ら自身も互いに誰が誰だか知らないし、知ろうともしない。暗殺者組織同士の安全策だった。正体を知ってしまえば何かの機会で暗殺の対象にもなりかねず、組織同士で果てしないつぶし合いに発展する恐れがあるからだ。知らない間に暗殺の対象になるぶんには、自らの組織の手の者が彼らを護り、ほぼ間違いなく返り討ちにしてしまうので、問題はない。襲った方も、組織の末端が死ぬだけだった。組織同士で際限なくやり合うのが恐ろしいのだ。


 「今回の緊急メスト招集、いったい議題はなんでしょう?」


 甲冑が微動だにせず、聞き取りづらい声を兜の下より発する。男とも女ともとれない声だ。声色を使っているようにも思える。


 この会合の招集は、三人の中の誰かが発し、それぞれの組織の指定されたある意味信頼ある暗殺者同士がつなぎあって、最終的に三人へつなげるのである。


 覆面……バーケンが、息を落ち着かせるようにして、しばし沈黙していたが、やがて発言をはじめる。


 「サラティスのカルマが、スターラに着きましたぞ」

 「ほう……」


 ふんぞりかえって、仮面がバーケンを見下すような姿勢となる。いつものことなのでバーケンは無視だ。


 「カルマといえば、このスターラにも、ガリア遣いの組織を作ろうと画策していた……」

 「左様」


 甲冑の言葉にバーケンがうなずく。つまり彼は、最初から知っていてアーリーたちに接触し、手始めにカンナを片づけてしまおうとしていたのだ!


 「グラントローメラの隊商にひっついてスターラ入りしたという情報を得ています。しかも、街道筋で隊商を襲った連合盗賊団を壊滅させてしまったとか」


 「そのようですな」


 甲冑の言葉に、バーケンがしらばっくれて答えた。彼がグラントローメラの大番頭というのは、仮面と甲冑の二人には知られていない。が、実は、バーケンと仮面は、表の仕事でも何度か顔を合わせており、うすうす互いに正体を感じていた。だがそこは黙っている。本当に得体のしれないのは、この甲冑だった。



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