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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
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第1章 1-3 契約

 それは確かにそうだった。カルマというだけで、サラティスでは何もかもが優遇される。カルマの名は、実力を既に示している。カルマが護衛についたというだけで、恐れをなす盗賊もいるだろうということだ。その値段なのである。


 「あたしたちがカルマだという保証は!? とんだ偽物かもしれないじゃなあい」

 バーケンは厭味の無い、爽やかな笑顔で手を挙げ、マレッティの言葉を制した。


 「サラティスのカルマのことは、私どもも存じあげております。この、アーリーさんのことも。お目にかかるのは初めてですが、お話に聴く威容の通り。あなたたちがカルマであることは、むしろ疑いを持つ方が不自然というものでしょう」


 それも、確かにその通り。バーケンの云うことに何ら不備は無かった。

 しかし、マレッティの不機嫌は直らない。


 「あたしはねえ、こういう上っ面がいいだけのやつを、いちばん信用してないから! アーリーにまかせるけど! 個人的には、反対だから!」


 そう云い放ち、鼻息と足音も荒く自室に行ってしまった。本来であれば仲間の非礼を詫びるところだが、アーリーもカンナも無言のまま立っている。もっともカンナは何を云っているのか分からないからだが、アーリーはマレッティを見送った後、竜めいた刃物みたいな赤い瞳をバーケンへ向けた。


 バーケンは内心、汗をかきながらも、笑顔を崩さない。


 「……商人が腹に逸物あるのは、優れた商人の証だ。私はおまえの商才を信じよう。おまえが何を考え、我々をどう利用しようとも、それはおまえの商才の一端だ。八十トリアンであれば、護衛任務としては、まあまあだ……引き受けてもいいだろう」


 「ほんとうでございますか!」


 「ただし、我々の仕事は盗賊の撃退だけだ。八十トリアンではな……。隊商の、他の連中の命の保証や、まして積み荷の責任は、全ておまえにある。それを忘れるな。そこまで我々に責を負わせるのであれば、桁がひとつ足りない。それが契約の条件だ」


 「は、はい……」


 バーケンの笑顔が、正直に半分消えた。戦いだけが能の竜退治屋と、少し侮っていた。万が一にも何かあったら、全てカルマの責任にできるとふんでいた。八十トリアンでそれならば、むしろ大儲けだと。カルマの財力は聞き及んでいた。この程度の積み荷の保証など、余裕だろうと。とんでもないことがいま分かった。全て見透かされている。ガリア遣い相手に、こんなことは初めてだった。契約内容を吟味し、しっかり整えなくては、逆に足元をすくわれる。


 「ごもっとも、ごもっともです。契約書は、こちらで用意いたします」

 「そうしてくれ」

 アーリーはバーケンを見もせずに、談話室を後にした。


 後には、半分口を開けたマヌケ面のカンナだけが残る。

 バーケンがそんなカンナを一瞥する。その視線に気づき、カンナもバーケンを見た。


 「こいつも、カルマなんだろうか?」


 と、顔に書いてあるのだけは分かった。あのサラティス攻防戦での超人的な、まさにダールにも匹敵する秘められた力の一端をかいま見せ、サラティスの人々から都市防衛の英雄を通り越して恐怖の大王めいた扱いをされ、針の筵だったカンナにとっては懐かしい反応だ。カンナが思わず上目がちにその翡翠色の眼で、にやっと笑ったので、バーケンは先程までの笑顔とはうって変わった、さも不気味なものを見たという顔つきとなって、そそくさと部屋へ戻った。書類を作成するのだ。


 一人残ったカンナは、談話室の隅にある喫茶コーナーでいまのやりとりを全て聴いていた宿が雇っている若い女中のところへ行き、


 「コーヒーをください」

 とサラティス語で云った。


 スターラ語しか分からない店員はカンナが何を云っているのか分からず、また、まだ不必要にニタニタしているカンナをこれも不気味に思って、逃げるように奥へひっこんで出てこなくなった。


 代わりの、ひきつった顔の宿の支配人が出てくるまで、カンナはしばらくニタニタしたままそこへ座っていた。



 翌日、それぞれ部屋で顔を洗い、準備を整えためいめいが朝食をとりに談話室へ行くと、既にバーケンが既に自らのサインをした契約書を用意して待っていた。アーリーがしっかり内容を確認し、うなずいた。


 「いいだろう。サラティスのカルマを代表し、私がサインをしよう」

 「では、それで……」


 アーリーのサインの入った契約書を受け取り、バーケンは満足げにそれを丸めて書類入れにしまった。そして、前金の四十トリアンを三人分用意し、それぞれ渡した。


 「宜しく頼む。私がカルマの代表、アーリーだ。こちらがマレッティ。こちらは、カンナ」

 「よろしくお願いします」


 バーケンが順に握手をする。先日カンナへ見せた嫌悪の表情など微塵も無い笑顔に、カンナは逆に感心した。


 さらに、バーケンは、豪華な朝食まで用意していた。


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