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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第3部「北都の暗殺者」
136/674

第1章 1-1 隊商

 第一章


 1


 リーディアリード発、パーキャス諸島経由ベルガン行きの貨客船ラーペオ号は、特段の差し障りも無く、無事に北方海路交易の要、スターラ(ストゥーリア)領の港町ベルガンへ到着した。都市国家共通歴であるヘアム=レイ帝月の末に近くなっていた。もうすぐ、雪が降ってくる季節だ。


 港はリーディアリードと同じほどの規模で、厳しい冬を越す必要があるためか、家々は頑丈に作られ、大きな煙突がどの家にもあった。アーリー、カンナ、マレッティの三人は、さっそくベルガンで最も高い宿を手配してしばし休むと共に、アーリーは港湾事務所へ行き、街道の通行許可をもらおうとした。本来であれば街道を管理する役所が別にあるのだが、地方都市なので港湾事務所がそれも兼ねている。


 「サラティスから来られたガリア遣い?」


 大の大男すら余裕で超えるアーリーの背丈と大柄な威容、それに燃えるような赤い蓬髪、彫像めいた厳しい顔つきに圧倒されながらも、事務所の職員はちょうど良いところに来たと云わんばかりに腰を上げた。


 「……と、いうことは、サラティスのバスクですか? でしたら、よければ隊商の護衛をやってくれませんか? ラーペオが今年最後の便なんですが、貨物をスターラへ届ける隊商の護衛が不足しているんです」


 「竜が出るのか?」


 アーリーが流暢なスターラ語で対応する。ガリア遣いが護衛となると、そうとしか考えられないが、事務所の若い職員の答えは違った。


 「この時期は、街道に竜はあまり出ません。出るのは盗賊団です」

 「盗賊だと?」

 アーリーは意表をつかれた。


 「盗賊ごときに、ガリア遣いを護衛にするというのか」

 「そりゃ……向こうにもガリア遣いがいますからね」

 「む……」


 アーリー、赤い瞳を丸くして、驚きを隠さない。いくら竜の出現が無いからといって、ガリア遣いが盗賊までするとは、そこまで貧しているとでもいうのだろうか。


 「事情は、一筋縄ではゆかないようだな。どうせ道すがらだ。かまわないが……報酬はいくらなのだ?」


 「お一人、五トリアン。無事に荷物をスターラまで届けることができたら、成功報酬でもう三トリアンでます。これでも、ただの衛兵の四倍ですよ」


 八トリアン金貨となると、サラティスのカスタでは約十カスタほどだろう。一度の合成竜人(バグルス)退治で二百五十から三百カスタを稼ぐサラティス竜退治請負組織の頂点である「カルマ」にしてみれば、まさに“ごみ”だ。


 「ふうむ……」

 さしものアーリーも、考え込んでしまった。


 「答えは急ぐのか?」

 「いいえ、明後日ごろまでに出していただければ」

 「仲間と相談する」


 アーリーは、いったん宿へ戻った。町で最も高価な宿といっても、町自体がそこそこの規模なのでたかが知れている。泊まっている者は、アーリーら三人と、スターラの裕福な商人の番頭だという人物が一人だけで宿は空いていた。それなりに豪華な調度品で飾られた食堂兼談話室で、アーリーは厚い毛長竜の毛織フード付コートを脱ぎ、愛用の赤竜鱗の軽鎧の上に羽織っているジャケットも脱いで片手にかけた。そして暖炉の火で尻をあぶっていたマレッティとカンナへ、さっそく説明する。


 「やあねえ、なによそれ、セチュの仕事ってことでしょお? そんな木っ端みたいな金貨稼ぐのに、ガリアを遣ってらんないわよお」


 もともと北方人のマレッティは、ここにきて周囲の者たちとあまり違和感が無い。北方といっても、スターラよりさらに北の民族を先祖にもち、濃い金髪と青い眼、白い肌がいかにも北国の雰囲気を漂わせる。長い脚を開き気味にして大きな尻を火にあて、口をとがらせてそう悪態をついた。


 「それよりカンナちゃあん、スターラにはお風呂なんて無いわよお。特にこれから冬なんだからあ、春まで風呂無しも覚悟しとくことね!」


 「ええっ!? うそお……ほんとですか、それ」


 風呂が名物であり習慣のサラティスを出て、バソ村、そしてパーキャス諸島においてもたっぷりと温泉に浸かってきた。それが、スターラでは湯に浸かる習慣そのものがないというのはマレッティから聴いていたカンナであったが、いざそう念を押されると、あからさまに嫌そうな面構えとなる。独特の長い黒鉄色(こくてつしょく)の髪を後ろで馬尾にしばり、漆喰めいた白粉肌と丸い水晶レンズのメガネが火を反射して、オレンジに光っている。そのメガネの奥には濃い翡翠色の瞳がある。これこそ、どこの民族部族とも異なる彼女の特徴だった。人々は、しかし、世の中には見たことも無い人種がいることを知っているため、最初こそは驚くが、きっと彼女の出身であるというウガマールのジャングルの奥地には、人知れぬ神話の時代より続く古代の部族がまだ生き残っているのだろうと勝手に想像し、納得して、いずれ気にしなくなる。この町でもそうだった。


 そのカンナ、風呂が無い生活というのを考えることすら恐怖に感じてきた。それほど、ウガマールからサラティスにきて、風呂に馴染んでしまった。加えて、これからこの寒空を十日も野ざらしで歩き、スターラまで行かなくてはならない。それも憂鬱だ。


 「やっぱり、お風呂が無いのはいやです。……それと、マレッティ、ストゥーリア語って……どうなの? 難しい?」


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