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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 5-3 夜襲

 祭が始まるからと呼ばれて行ってみると、リンバ島へコンガルの生き残りの住民を護送してきた四隻の漁船も戻ってきていた。本当に、着の身着のままでコンガルの人達をリンバ島へ放り投げるごとくただ置いてきたようだった。彼らの分の余分な食料も乏しいはずのリンバ島で、住む場所も無く、水も少なく、ようするに冬の間に苦しみながらみんな死ねというにも等しい扱いだった。直接処刑するには気が引けるというわけか。


 「島根性よねえ。意外といやらしい連中だわあ」


 この二日で仕立てた新しい旅装に身を包んだマレッティが、祭に浮かれるバーレスの人々をねめまわしてつぶやく。


 「聴こえるって、マレッティ……」


 港の広場にはテントが張られ、テーブルにはバーレスの人々が丹精こめて用意した料理や酒が並んでいた。ローストビーフ、鳥や豚の焼き物、煮物、揚げ物、山羊汁、それらの臓物料理、などの肉料理は、パーキャス諸島の人間にとっては結婚式か葬式でしか食べられない大御馳走だった。大漁祭ですら出てこない。それらは、もちろん真っ先に貴賓席へ座ったアーリー達に盛られたが、肉類は大陸へ戻ればいつでも口にできるので、少し口をつけると、遠慮してバーレスの者へ分け与えて喜ばれた。


 それに、山のような海の幸だ。カンナ、大鍋で作られたパーキャス名物の魚肉団子スープは、コンガルのものよりハーブが薄く、塩味が濃いように感じた。


 「こっちこそ、食べおさめよねえ。たぶんもう二度とこんなにたくさんの新鮮な魚はたべないわよ」


 マレッティは巨大なロブスター蝦を茹でたものへかぶりつき、深い器に入れられた魚介スープを大きな木のスプーンでかっこみ、白身魚のフライを頬張った。さらに島自慢のエールをここぞとがぶ飲み。


 アーリーも、黙々と魚介の料理を口にしている。


 カンナはコンガルの居酒屋カルビアーノや、いっしょに食事をしたバルビィを思い出し、やたらと切なくなった。どうも、自分はここのところ感傷的なのだろうか? 


 (そういや、バルビィはどうしたんだろう?)


 あの毛布をかぶった人物は何者だったのだろうか? あの後、井戸水で血を洗い流し、やわらかい(なめし)竜革の眼鏡ふきでメガネを清め、それとなく周囲を観察したが、まったく分からなかった。どうも、よく覚えていないがギロアを含めてあのガリア遣い達はみな倒されたという。きっと、ギロアの館にいたガリア遣いの誰かに襲われたのを、バルビィが助けてくれたのだろうことはなんとかなく理解できた。自分をこの島から解放してくれた礼のつもりだったのだろうか。


 「やあ、みんな、食べてるかい?」

 リネットがエールのジョッキを片手に席へやってきた。

 「なによあんた、珍しく酔ってるの?」

 「ま、お祭だからね」

 マレッティとリネットが、木のゴブレットを打ち合わせる。


 「あんた、これからどうするのよ?」

 「ボクはこれまで通りに、ここで普通に暮らしていくさ」

 「ふうん……」

 「あ、踊りが始まるよ」


 バーレスの有志による木製管楽器や撥絃(はつげん)楽器、太鼓や金属の鳴り物の素朴な民族楽団が登場し、華やかな音楽を奏で始めると、人々がいっせいに三拍子と二拍子が交錯する速い踊りを輪になって踊り始めた。


 「不思議な踊りねえ」

 マレッティが興味深げに見つめた。


 「パーキャスの伝統的な踊りだよ……三拍子がバーレスで、二拍子がコンガルに伝わっていた踊りだったんだけど、いつのまにか混ざったんだ。パーキャス融和の象徴だったんだけど……どうしてこうなっちゃったんだろう」


 「しらないわよ、そんなの……」

 「きみたちは余所者だからね。関係ないよね」

 「あたりまえじゃない。もう用は無いわあ、こんなところ」

 「確かにそうだね」


 リネットが笑いながらどこかへ行ってしまう。マレッティは酔った眼でその後ろ姿を見送ったが、眼の奥の不気味な底光りは消えていない。


 祭は夜遅くまで賑わったが、なにせ晩秋のため夜風に寒さが襲ってき、思っていたより早くお開きとなった。残った料理は明日、後の祭りでしめやかにふるまわれるのでよかったらまたきてください、とウベールが云った。アーリー、カンナ、マレッティは席を辞し、三人揃って半刻(約一時間)ほど酔い醒ましに歩いて宿にしているかつて豪邸だった公民館についた。大きな温泉へ入り、あとはもう、ベルガン行きの船を待つだけだ。アーリーとカンナは、水を飲んで早々に部屋へこもると寝てしまった。


 マレッティは最後に風呂へ入り、彼女にしてはゆっくりと身体を温めると、服を着て、アーリーとカンナがすっかり寝息をたてているのを確認し、密かに館を出た。


 雲が出ていて、夜道は暗かったが、マレッティはガリアの明かりを出さなかった。目立つためだ。波の音しかしない海岸ぞいの道をすみやかに進んで、港へ至ると慎重に船溜(ふなだ)まりを確認した。ここで初めて、月と星明かりでは心もとないため、微かにランタン程度の明かりをガリアの力で右手に掲げる。岸から船を一艘一艘確認していると、後で声がした。


 「ボクに何か用かい? マレッティ」


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