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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 5-2 シロン死す

 「ハア……ハア……」


 荒く息をつきながら、瓦礫だらけの町から外れ、海岸線沿いの道をとにかく走って、シロンは誰にも見えないところまで来た。そこで毛布を脱ぎ捨てて、道から坂を下りて海岸に着いた。砂浜に、血が滴る。左手で手首をきつく握りしめている右手は、薬指と小指を残して掌が完全に破壊されていた。真っ赤に崩れた肉の中に骨が見える。


 「……おのれ……バルビィめが……」


 シロンが苦痛に呻き、そして憎しみと悔しさに歯ぎしりした。


 ガリアごと彼女の手を攻撃したのはバルビィのガリア「竜角紋炸裂連弾銃(りゅうかくもんさくれつれんだんじゅう)」の消音弾だ。間違いない。


 それにしても、バルビィがカンナを助けるとは……。


 必殺の間合いだった。バルビィの邪魔がなければ、確実にカンナを()っていた。その小憎らしいメガネ面を凍結粉砕していたのだ。どこで、そしていつからカンナを見張っていたのか。


 お互い凄腕の暗殺者同士、その存在を完全に失念していた。……いや、バルビィは逃げてしまったと思い込み、よもや連中に雇われていた……あるいは、わけあってカンナたちの仲間になっていたとは考えもしなかったシロンのミスだ。


 「う、ぐぅ……」


 海水につけて傷を洗う。凄まじい痛みに、脳が痺れた。近くの岩場までよろめいて歩き、寄り掛かるようにして膝から崩れた。下半身が海水に浸かる。出血に、目眩がする。疲労もすごい。なにより、精神力がごっそりと奪われている。ガリアは、まだ出るのだろうか。まだカンナを殺す機会はあるだろうか。あのような、言語を絶する超絶的なガリアを使うカンナを。心臓が苦しい。


 「あらあ、だいじょおぶう? ぐあい悪そおねえ」

 「!!」

 シロンが腰を浮かせ、血走った眼を上げた。


 楽しそうに酷薄な笑みを浮かべたマレッティが、ガリア「円舞光輪剣(えんぶこうりんけん)」の細身の刃を舐めていた。その光に、顔が照らされる。


 「きさ……ま……!」


 シロン、左手に、ガリアを出す。まだガリアが出る。彼女の精神は死んではいない。が、出した瞬間に、マレッティの光輪が左手を手首から落とした。


 「あ……う……」


 シロンはがっくりと両肩を落とし、再び膝を波間に漬けた。膝のあいだに置いた両手から大量の血液が逃げ、海水を赤く染めた。海に沈んだ左手の握っていたガリアが、消える。


 「あんたは、あのバグルスより手加減してあげるわあ」


 泣きそうに顔を歪め、ギッとマレッティをにらみつける。その顔面に、胸元に、大量の光輪が叩き込まれた。両手足を残して胴体が細切れにされ、シロンは海岸ぞいの波打ち際に、血煙と肉片をまき散らした。


 小さなカニが集まって、さっそくその新鮮な肉を鋏でついばむ。

 マレッティは鼻唄まじりに、上機嫌で町へ戻った。

 


 まだ、マレッティの仕事はあった。

 肝心の仕事が残っていた。

 機を伺う。


 翌日の早朝、漁船やバーレスの組合所有の小型貨物船に乗りこみ、一行はバーレスへ戻った。リネットは、自分の小舟を使った。コンガルの生き残りの人々は、四隻の漁船に分けられて先日の夕刻の内に出発していた。そのままバーレスへ上陸も許されずにリンバ島へ向かってしまった。


 バーレスではギロアが死んでシロン達もいなくなり、さらにコンガルが壊滅したという報を受け、祭の準備が始まっていた。年に一、二回しか食べないという山羊、豚、さらには牛や鶏をつぶして御馳走を作る。魚料理も、云うまでもなく用意される。準備に二日はかかると云われた。


 また、リーディアリードからパーキャス経由でコンガル行きの臨時貨物便と、サラティス領の港町ラクティスからウガマールへ行く最終便が出るとの連絡もあった。いま、出港の準備をしているという。リーディアリードへ注文を取りにいっていた漁師が戻ってきて、そう告げた。彼が受注してきた品をあらかじめ用意しておき、船が着くと同時にすぐに荷役できるよう、上屋(うわや)へ準備しておくのである。魚の塩漬けや干物、オイル漬け、さらには魚醤、魚粉、魚油に、肥料として使うそれらの搾りかす、などの注文が大量にあって、浜は活気にわいた。今年最後の稼ぎどきだった。


 「コンガルどもがいねえから、値もつけ放題、注文も独占だ!」

 ウベールが台に乗ってそう叫びながら、仕事を指揮していた。


 アーリー達は島の町から離れた場所にある、かつての富豪網元たちが建てた温泉付の豪邸……いまは公民集会所に使われている建物に宿泊を許され、温泉でゆっくり祭が始まるまで骨を休めた。存分に暖まって汗と垢と潮を落とし、祭に出る御馳走を食べるため、質素な食事で二日を過ごした。


 二日後は、よく晴れたまさに秋晴れだった。まだ、風は暖かい。まるで春先を思わせた。

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