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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 4-4 流星

 「行きたいのはやまやまだけど、ボクはダールとしての力はほとんどない……足手まといになるだけさ」


 アーリーは黙って、リネットを見つめた。その真意を量っているように見えた。リネットはそんなアーリーを微笑みながらも、鋭い視線で見返す。


 「どうする? アーリー。従わないボクを殺すかい?」

 「いや……」


 アーリーは眼をつむり、しばし沈みかけている斜陽に沈思していたが、やがて納得してうなずいた。


 「分かった。だが、リネット……名前だけでも貸してもらえまいか」


 「名前だけかい? ボクがアーリーの味方についたと、吹聴して回る? そのせいで、ボクに危険が及ぶのなら、それもお断りだね」


 「そうか」


 「それと、ボクがここにいるのも、ボクが青竜のダールだというのも、他言無用に願いたいね。バセッタがもう死んでいることは、それとなくふれて回ってほしいくらいだけど……」


 「分かった。そうさせてもらう」

 アーリーは、もう何も云わなかった。リネットと握手をする。


 「船頭をありがとう、リネット。世話になったな」

 「こちらこそ」

 「請求書を忘れるなよ」

 「もちろんさ」

 マレッティとカンナも、リネットと握手をした。


 「タータンカ号は沈んだけど、おそらく最後の船が来ると思うよ。リーディアリードからそれぞれパーキャス経由で、ベルガン行きとラクティス経由ウガマール行きの二便が来るはず。それで、正真正銘、今年の船は最後さ」


 「では、その船で我々はベルガンへ行けるのだな……」

 リネットがうなずく。マレッティは頭の後ろへ手をやり、大きく息をついた。


 「とんだ道草だったわねえ。で、どうするの? 今日はどこで寝るの? お腹もすいたけど……食べるものなんかなさそうだしねえ。それに新しい服も欲しいけど、町があんなじゃあ、望み薄よねえ」


 「あの岩影で休もう。食べ物は、明日まで我慢してよ。きっと、バーレスから救助の人達が来るだろうから……水は、館の裏に井戸があるよ」


 「さむいわあ」


 マレッティが包帯代わりの白布を巻いた腹をさする。厚手の服は、ギロアに破かれているので風通しが良い。


 カンナは、バルビィと入った温泉施設があったのを思い出したが、何か、とても云いたくない気分だった。コンガルの壊滅が自分のせいのように感じ、そんな気分になれなかった。いまから坂を下り、壊滅した町を通って道を海岸まで行く気力がないというか。


 四人はやや離れた場所の岩影で風をしのぎ、アーリーの出した火を交代で番をしながら、暗闇の中にめいめい横になって休んだ。


 だが、カンナは眠れなかった。


 見慣れない星座も気になったが、メガネをはずしてしまったら何も見えない。闇と変わらなかった。ぼんやりと天が明るく光っているようにしか見えない。月も、何十と重なってどんな月でも満月に見えるほどだ。


 枯れ野に寝返りを打ち、ため息ばかりついていると、火の番をしていたリネットが小声で話しかけてきた。


 「どうしたんだい?」

 「え……ちょっと、眠れなくて……」


 「ボクがダールだと知って、驚いたかい?」

 「そりゃ、驚きましたけど……」

 火を挟んで、リネットは座ったまま、カンナは横になったまま、しばし語る。


 「こんなダールもいるのさ。こんな、何の役にも立たない……名前だけのダールがね。きっと、もうすぐ本当の青竜のダールが現れるよ。そうしたら、ボクはお払い箱さ」


 カンナは答えられなかった。例外があるとはいえ、ダールは、一人死んだら次のダールが生まれるとギロアから聞いた気がした。つまり、リネットが死なないと次の青竜のダールは出てこないのではないか。


 「カンナは……バスクスなんだって?」


 やや沈黙の後、唐突なリネットの言葉に、カンナは絶句した。黙りこんでいたが、リネットはカンナの呼吸の気配へ耳を傾け、いつまでもカンナの反応を待った。


 「そんな……分かりません」


 「怒らないでよ。カンナ……バスクスというのは、きっかけにすぎないよ。カンナは……もっと、とてつもないものになる可能性を秘めている。そんな気がするんだ……」


 「ええ……? なりませんよ、そんな……」

 「深き先導が云うんだよ。間違いない」

 「なんになるっていうんですか?」

 「神様さ」


 はあ!?


 リネットがあまりにサラッと云ったので、カンナは聞き返すのも馬鹿らしくなり、聴こえないふりをしてまた黙った。リネットも、もうそれ以上話しかけなかったので、カンナは眼をつむっていたら、いつのまにかねむっていた。


 リネットは一人、満天の星を観て未来を読んだ。そして、火に赤く染まるカンナの寝顔へ視線を移す。その顔は、かすかに微笑んでいた。


 「新しい神……か。人は、せっぱつまると、そんなものまで造りだすのさ」

 カンナの寝顔を、リネットはいつまでもみつめていた。


 「ただ……その道のりは呪われて、険しい……」

 大きな流れ星が、ひとつ、天を裂いた。


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