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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 3-4 奥院宮

 のけ反って、カンナが坂に転がる。高台のちょうど対岸の位置にいたトケトケが、カンナを射抜いたのだ!


 しかしカンナ、射抜かれてはいなかった。


 のけ反ったのはガリアが音の防壁を無意識で作り、それにカンナが押し退けられたかっこうとなったからだ。


 ガリアはしかも、自動的にトケトケへ雷撃を繰り出していた。


 「ダメえッ!!」


 カンナが無意識を制御しようとする。空から一条の稲妻が降り注ぎ、トケトケを襲う。瞬間につんざく雷鳴。カンナは起き上がって走った。


 「どうして……!?」


 カンナは涙が出てきた。カンナはトケトケたちがシロンから報酬を受けてアーリーやカンナを売ったことをしらない。また、バルビィとの戦いのとき、トケトケが自分を襲ったのもだ。


 だが、真実は、そんな生易しいものではなかった。


 坂を下り、また登る。岩影に倒れているトケトケの上半身が見えた。カンナは息を切らせ、懸命に坂を上がる。上がりきって、トケトケへ近づいた。近づいて、恐怖と衝撃に足が止まった。震えが止まらない。


 雷撃はトケトケへの直撃を避けたが、下半身を焼き尽くしていた。腰から下が焼け焦げ、炭化した左脚は膝から折れて吹き飛んで転がっている。血生臭い焦げた臭いと、電離物の鼻をつく酸っぱいような刺激臭。


 トケトケは長い癖のある黒髪を枯れ芝の地面へ投げ出し、風にあおられて目鼻だちの整った顔へその髪がからみついた。仰向けに虚空を見つめ、両手を拡げて倒れている。右手には、ガリアの弓である鋼板発条竜射弓(こうばんばねりゅうしゃきゅう)がまだ握られている。大きく美しい眼でカンナを認めると、トケトケはぶるぶると左手を上げ、右手のガリアに矢をつがえようとする。


 カンナは棒立ちとなってトケトケをただ見つめた。


 トケトケ、ガリアの矢がもう出ないことに気づき、ばったりとその左腕を地面へ投げ出した。右手の弓も、砂のようになって強い潮風に消える。


 「どうして……」

 カンナがようやく声を絞り出した。

 「どうして……?」


 トケトケが眼だけで、カンナを逆さまに見上げた。その表情はあくまで虚無に彩られている。


 「……でき……」


 トケトケが、かすかに動く口で何かを云った。カンナ、思わず膝をついてトケトケへ顔を近づけた。トケトケ、最後の力をふりしぼり、カンナへかすれた声で言葉を伝えた。


 「……できそこ……ないの……カスが……生意……気に…………の……候……補……など……身……程……を……しるが……いい……」


 「……!?」

 カンナ、意味がわからぬ。


 トケトケの目玉が、はじめて表情を映した。血走って見開き、カンナへ憎しみを容赦なく叩きつける。ガクガクと首を動かし、歯を食いしばって、カンナへおそるべき表情(かお)を向けた。


 「いいか……(おく)……院宮(いんのみや)……の……全て……が……クーレ……神官……ちょ……に……従……ると……おも……わな…………こと…………だ…………!!」 


 首が落ちる。

 眼をむいたまま、トケトケは絶命した。


 カンナは大海坊主竜もアーリーも忘れ、頭と精神が真っ白となってその場に座り込み、ただ吹きすさぶ風に身を曝すだけだった。


 空を覆う風の啼き声が、いつまでも耳についた。


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