第1章 3-5 バグルスの死
「ふんぬゃああああ!!」
カンナが、無我夢中で黒剣を横殴りに振りかざす。空気がゆがみ、稲妻より先に何かが飛んだ。バグルスは脳天へ振動が直接走った感覚に硬直した。ドーン、と脳が揺さぶられた。空気が引き裂かれ、雷鳴にも似た鈍い地鳴りのような音がして、バグルスが固まる。そこへカンナの返す剣で横払いの第二撃! ガリアの力で硬質な鱗へ易々と剣が食い込み、骨を絶って、バグルスの胴体は腰から胴払いに真っ二つとなった。
カンナも勢い余ってそのまま倒れ臥す。
地面へ崩れたバグルスは血をぶちまけながら上半身だけで暴れ、カンナへ憎悪のうめき声と共に爪を立てて這いずって迫ったが、やがて動かなくなった。
カンナは気絶し、微塵も動かなかった。
そのカンナめがけ、直上から一匹の軽騎竜が翼を畳み、爪を立てて落ちてきた。猛禽類が獲物を狙うのと同じく、すさまじい速度で地面へ迫る。
が、炎の塊が弾丸となって飛んできて、その竜をとらえた。火の弾は竜へ激突すると大爆発を起こし、竜を燃やして大地へたたきつけた。燃えながら竜がのたうったが、火炎弾を飛ばしたアーリーがその炎色片刃斬竜剣を大上段に掲げて走り込み、これも大振り回しからの逆袈裟斬りで竜を胴斬りにし、さらに燕返しに返す刃で、三等分にした。
「……カンナ!」
振り返って、アーリーが珍しく声を荒らげ、カンナへ大股で近づいた。
ものの、突如としてカンナが飛び起きて、
「おおおオマエも竜かああああ!!」
血走った眼で黒剣を振りかざしてきた。
瞬間、アーリーは巨体を屈め、カンナの鳩尾へ拳を叩き込んだ。もちろん、手加減してある。手加減しなくてはカンナは内蔵が破裂して即死していただろう。それほどの威力だ。
カンナはアーリーの腕の中で、再び気絶した。
アーリーは息をつき、カンナを抱き上げた。バグルスと軽騎竜が確実に死んでいるのを慎重に確認すると、サラティスへ向かって歩きだす。すぐに、走ってきたマレッティとフレイラが合流した。
「アーリーさん、火炎が見えましたが、逃げた軽騎竜は……」
フレイラが、振り返ったアーリーの腕の中のカンナを発見した。
「あっ、こいつ……戦ったんすか?」
「バグルスを倒した」
「こいつが!? ……信じられねえっす」
「すっごおおおい、カンナちゃん、バグルスを一人で倒したんだあ……」
マレッティも目を丸くして、気絶するカンナを見た。
「バグルスのやろう、いねえと思ったら、カンナを襲っていたんすね。しかし、なんでまたこいつを……?」
「二人とも、なぜカンナを一人にした」
えっ? と二人がアーリーを見た。気のせいか、声に怒気がある。
「な、なぜって……」
「塔へ戻ったら話がある」
アーリーは歩きだした。フレイラが顔をしかめる。
「お説教だぞ、こりゃあ。あいつのお守りはお前の仕事だぜ、マレッティ。なんでオレといっしょに来たんだよ」
「なんでって……あたしのせいにするわけえ?」
「そうじゃねえけどよ……」
二人は渋い顔のまま、無言でアーリーの後に続いた。