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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 2-4 粛清

 思わず叫んだマレッティ、いまが機会と、背中の巨大な光輪を飛ばしつける。やはりギロアの間合いに入ると速度が落ち、まるで空中へ止まって見える。


 チィ! 舌を打って、両手を上へ掲げ、投げつけたものと同じ大きさの巨大後輪をずらりと出現させると、それらを重ね合わせ、ひときわ厚くて、一斉に回転する恐るべき物体をマレッティは投げつけた。


 重なり合った光輪がそれぞれ回転し、不気味な摩擦音をたててギロアへ迫る! 


 「ぬぅあああ!!」


 ギロアが血走った赤い眼をむき、一気に手にしていた光輪を砕いてしまうと、無理に起き上がろうとしてパジャーラの網を引きちぎって、片膝を付き、その重連環光輪を両手で叩きつけるように掴んだ。ギロアがガリア封じの力を振り絞り、動きを少しでも弱めつつ、再び両手へ満身の力をこめて止める。バシッ、と光輪にヒビが入るも、さすがに一筋縄ではゆかない。牙を食いしばり、渾身懸命の力を入れる。


 「今だ! いまだっつうの!!」

 マレッティが眼をむいて、ニエッタにそう叫んだ。


 ニエッタ、もう涙と鼻水を垂れ流したまま、本当に大きな石英の塊を拾うと両手で抱え上げ、遮二無二ギロアの頭に叩きつける。


 ガッ、とギロアの首が揺れた。


 角は折れない。ギロアの怒り狂った眼がニエッタをとらえた。手を離すと光輪にやられるため、ギロアはただ睨むだけだった。


 「……う、うあ、うっ、うわあああああ!」


 ニエッタは、眼をつむってひたすらギロアの頭へ石英を打ちつけた。何度も。何度も! 血が飛び散り、ギロアの顔面が真っ赤に染まる。最後にニエッタ、雄叫びと共に渾身の力で打ちつけ、ついにその側頭部から伸びる角の片方が中程よりぼっきりと折れ、同時に石英の塊が割れた。


 その、瞬間。


 半分砕けていた大光輪が、元の回転を取り戻す。掴んでいたギロアの両手が、いや、指が、全て切断されて散らばった。


 のけ反ってばったりとギロアが倒れたので、光輪はそのまま飛んでニエッタをかすめ、結晶の壁へぶつかって反射し、あらぬ方向へ行って消えた。ニエッタは腰が抜け、へたりこんだ。


 ギロア、ぶるぶると震え、血を流しながら指の無くなった竜の手で身体を起こす。まるで血の川のように地面の結晶面へ血が流れた。


 「こおの、バアグルスウウ! よくもあたしになめた口きいてくれたわねええ!」


 マレッティが修羅めいた顔つきで、今度こそ何十という大小の光輪斬を出し、ニエッタとパジャーラの目の前で横たわるギロアへ叩きこんだ。たちまち、ギロアは血煙が吹き上がるまで切り刻まれた!


 さらにマレッティ、追加の光輪を出し容赦なく叩きつける。


 おまけで三度目!


 合計で百に近い光輪が結晶の地面へ細かく反射し、反射してはまたギロアを無数の肉片へ刻み、すりつぶした。スライサーの回転する甲高い空気を裂く音と、グチャグチャにされるギロアの肉体の悲鳴が交差する。まばゆくきらめく光が赤く染まり、やがて光輪が消えたころには、ギロアは挽き肉をも通り越して、骨片の混じった液体みたいになって、赤黒いどろりとした血の池を結晶に映した。


 「ざまあみなさいってえの!!」


 マレッティのあまりの残忍な剣幕に、ニエッタとパジャーラは言葉も無くただその光景を見つめていた。


 それへ気づいたマレッティ、一転してにこやかな顔となり、二人へ近づく。二人は身をすくませ、怯えた。


 「お疲れさまあ。さすがにちょおっと、手強かったけど……二人のおかげで倒せたのよお」

 ニエッタがなんとか立ち上がり、引きつって笑う。

 「よ、よ、よかった……です」


 そしてさすがに気分が悪くなり、ギロアの濃厚な血肉の臭いに口元を手で抑えた。竜の血の臭いなど慣れているはずなのに、吐きそうだ。


 パジャーラは、マレッティの態度に安心してか、ほっと息をついた。

 ふと、マレッティの切り裂かれた服の下の白い腹と下乳を指さす。


 「マレッティ……血が……?」

 見ると、赤く染まっている。返り血か?


 いや、ギロアの攻撃が、ぎりぎりでかすっていた。まさにかすり傷程度だが、三本の爪痕がへその下から右胸の下乳にかけてついており、あまり痛みは無いがけっこう出血している。


 マレッティの顔が、また先程のように歪んだ。

 が、すぐに笑顔となって、手持ちの白布を当てた。

 「いやねえ、完全に避けたと思ったけど……」


 「大丈夫……かい……?」

 「ま、これしきはねえ」

 「それより……どうするんだ? あの死体はなんなの?」

 ニエッタが涙目のまま、壁にもたれたまま今の戦いを見つめていたミイラを見た。


 「ああ……」

 マレッティも、青竜のダール、バセッタの死体を振り返る。

 「死んでるならちょうどいいわあ。それから、あんたさあ」

 「はい……?」


 やおら、そのパジャーラの胸から肩口にかけ、マレッティの光輪が三つ光り、パジャーラはまるで爪痕のような傷から血を吹き出してどっと崩れ、絶命した。


 「……あ!?」

 ニエッタ、状況かつかめぬ。


 「だいじょおぶよお。ちゃんと、“バグルスにやられたように”殺してあげるからあ。死体くらい、誰か回収してくれるでしょ。この場所が分かれば」


 「どっ……どうし……てっ……」

 ニエッタが後退るが、衝撃と恐怖で脚が震え、まるで進んでいない。


 「さっき、あのバグルスも云ってたでしょお。裏切り者は、また裏切るのよ。……こいつ、カルマを売っておいて、五体満足ですまそうなんて思ってたってえのぉ!?」


 マレッティが眼をむき、三光輪でニエッタの顔面を斜めに切り裂いた。絶叫が洞穴内にこだまして、ニエッタは顔を押さえて膝をついた。


 「ほら、立ちなさいよお!」

 マレッティがブーツでニエッタを蹴り上げる。


 ニエッタは立つどころか、ひっくり返って血を振りまいてのたうち、やがてうつ伏せに震えて呻くのみだ。


 ニエッタはその背中にこれも三筋の深い切り傷を負わされ、がっくりと顔を冷たい結晶の地面へつけると、何も云わなくなった。


 「じゃあねえ~」

 マレッティ、一人、漁師の待つ海岸へ凱旋する。

 コウモリが、凄惨でありつつも美しい結晶の世界に広がる赤い海を静かに見下ろしていた。



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